成れの果て

まばゆいばかりの陽光である。風は冷たい。数字上の気温は十度前後をうろうろしている。しかし陽射しだけは紛れもない春のものだ。
▼相変わらず週末の現場はてんてこまいだが、このところなんとか定時にあがり睡眠不足を解消しつつある。例のレポート問題が解決していないものの、相手先も忙しく宙づり状態にあるからだ。逆に相手先の担当者からすれば「忙しいのに手間とらせやがって」ということになるだろう。
▼子供たちが遊びに出払った日曜は久しぶりに妻と近所の韓国料理屋でデート。初めてみるママそっくりの白髪の店員に「お母さん?」ときくと「倍とるよ!昨日からお客さんに言われてショックよ。姉です」だって。その後ショッピングモールに回ってウインターバーゲンのパーカーを買って抹茶スイーツ。

女性のおひとりさまがどんどん入ってくる。男の僕でもひとりパフェしたくなる引きだが、甘味を全く感じない。よっぽど疲れてるんだな。
▼今週は下の子がスキー合宿で不在なので早めに帰って妻とデートでリハビリだ。火曜は夕食後いつものブックカフェに。最新刊「服従」にまだ手をつけないうちに、文庫化したウェルベックの「プラットフォーム」と「ある島の可能性」を購入。「バレンタインも近いから」と妻がルタオのチョコレートを買って帰る。
▼水曜はやはり近所のタイ料理屋に。ここはタイ人のご主人が料理を作る日本人の奥さんが経営するお店。バイトの女の子が大地真央をもっと無表情にした感じで雰囲気がある。だが注文を通す時のタイ語の発音が本格的なので、きっとタイマニアなんだろう。いろんな人がいるもんだ。香草唐揚にトムヤンクン、パッタイ(タイ風やきそば)にマッサマンを食す。



▼下の子は犬コロなので予想通り転げ回ってスキーを楽しんでいるようだ。初日から妻に「オレうますぎてすぐ上級」とのメールをよこす。うちの子は二人とも運動神経がいい。僕も妻もけして運動が得意な方ではないから、これは小さい時におじいちゃんがよく公園で遊んでくれたおかげだ。外で身体を動かすことに苦手意識がない。どころか大好きなのだ。
▼高校のスキー教室といえば、スキーではないが高校の修学旅行が長野だった。ところが出発の数日前に突然頭が割れるように痛みだして、どうにも我慢できず救急車を呼んでもらった。病院でも頭が痛くて吐いた。髄液検査の結果「髄膜炎」ということで、一週間ほど入院した。ちょうど修学旅行に重なって誰一人見舞にこなかった。
▼退院後もふらふらして畳に足がつかず、しばらく部活を休んだ。ちょうど代替わりの時期で先輩が引退し、休んでいるひと夏の間に後輩たちも力をつけたが、先生は復帰をせかすわけでもなかった。浦島太郎になった気分だった。練習の見学も強制されず、秋の午後の光の中を電車に揺られて帰った記憶が残っている。
▼元プロ野球選手の清原和博覚せい剤保持の現行犯で逮捕された。彼の人となりを一言で表すとすれば、ナイーブという言葉が一番しっくりくる。要するに48才の大きな子供である。彼は生まれてこの方野球しかしてこなかった。野球のプレー以外に彼にできることは何もない。引退すれば、こうなることは目に見えていた。
▼彼をこんな風にした一番の責任は親にあるが、周りにいた人ももう少しなんとかできなかったものか。最初に大人の都合で傷つけた負い目があるから、プロ入り後はもう甘やかすしかない。ちやほやして彼をスポイルした責任は野球界全体にある。奥さんはよく支え、よく耐えたと思う。下り坂の7年と、やめてからの7年を共にした苦労は並大抵のものではなかったはずだ。離婚は全てを諦めたということだ。僕もそうならなくてよかった。