日雇い体質

昨日は一日中本降りの冷たい雨が降り続いた。一夜明けるとすっかり空気が入れ替わっていた。二、三日前までの陽気が嘘のようだ。寒の戻りである。
▼瞬く間に日々が過ぎてゆく。一週間があっという間だ。ひな祭りは親戚の兄ちゃんの一周忌。お彼岸に帰省する妻に、代わりにお参りに行ってもらおう。土曜は先月竣工した大型工事の打ち上げ。生憎客先は不参加だが身内だけでも労う。こういうことは終わってすぐやらないと意味がない。当該工事担当の職員3名と、その他雑工事で応援にきている2名を加え、計6名で会社で使う割烹居酒屋へ。
▼席につくなり対面に座った新人が僕に質問する。「○×さん(僕)は会社の幹部なんですか?」「いや、ただのヒラだよ」そりゃ不思議に思うわな。お客さんと話をしてお金を決め、監督に現場を割り振り、終われば慰労会の音頭をとる。その場にいる一番デキのいい会社のエースでさえ、このうち工事管理の部分だけをうまくやっているにすぎない。
▼やってることは幹部社員のそれ。じゃあなぜそうじゃないのか。いろいろ理由は考えられるが、一言でいえば僕に人望がないからだ。会がすすみ酒がすすみ口がゆるむ。すると次の事業所担当者候補の監督がこんなことを言う。「僕がやるならお金のことは別にして安全第一でやりますよ」いっしょにいて、いっしょに仕事をしているのだから、暗に僕のやり方を批判しているわけだ。
▼一次会で飲み食いさせて、女の子のいる二次会に流れ、「あとは若い人で」とエースにお金を渡して一足先に消える。翌日仕事だと思い切り飲めないだろうと、日曜は一人で休日工事を回す。こういうことをして何を望むわけでもないが、後日誰一人「ごちそうさま」の一言もない。要は甘く見られているのだ。不徳の致すところと言うほかはない。
▼月曜は上の子の専門学校の卒業式。火曜の早朝ケータイの音にたたき起こされる。着信は上の子からだが出ると知らない若者だ。「○×君(上の子)の具合が悪いので救急車を呼びました。病院がわかったらまた連絡します」急性アルコール中毒である。「あなたが突き放すような言い方するから」妻は半ベソだ。先日の件で自暴自棄になったのだろうか。病院にかけつけるとこちらの心配をよそにスヤスヤ眠っている。
▼慌てていて付き添いの友達(3人)にお礼も渡さずに帰してしまった。あとできいたところによると、電話をくれた子(金髪、ピアス)は春から消防士だそうだ。病院の先生が「適切な処置だった」と褒めていたらしい。ある意味息子の命の恩人である。「これでメシでも食って」といくらか包むくらいの機転はきかせてもよかった。
▼そんなことは病院に向かう車の中で当然考えておくべきことなのだ。遠い将来の計画は、近い未来の予想の積み重ねである。ほんの少し先で起こりうる事態の想像力にすら欠けているから、ひとつとして一人前の大人の対応ができない。この親にしてこの子あり。この子がこんな風になったのもみんな僕のせいだ。全く情けない。申し訳ない。
▼妻を残して一人職場に向かう車の中で自分の若い頃を思い出す。僕も救急車で運ばれこそしなかったものの、近くに消防士(の卵)がいれば確実に通報(又は救命)されるほど痛飲したことは何べんもある。マスターの店でおろしたばかりのウイスキーのボトルを、まるで部活終わりの運動部員のようにコップに注いでは一気に飲み干しそのままひと瓶飲み切ってしまった。その後の記憶はない。
▼次に気がついたのは翌日の夕方、小田急線の藤沢駅である。つまり朝マスターの店を出た僕は、その日一日中気を失ったまま新宿ー藤沢間を往復していたことになる。駅員に揺り起こされてはホームに出、また列車に戻るの繰り返し。その後高田馬場の下宿まで這って帰り、翌日は酷い二日酔い(正確には三日酔い)だった。
▼耳から血が出ていたので誰かと喧嘩でもしたのかと思ったら、後日マスターにきいたところ、カウンターのスツールから何度も転げ落ちていたという。何度目かに這い上がった時には血だらけだったそうな。庇い手もできないほど泥酔し、頭から床に落ちていたわけだ。よく生きていたと思う。
▼なぜそんなに荒れていたかというと、目標を見失ったからだ。いや、目標なんて生まれてこの方一度も持ったことはなかった。あるのは虚栄心だけ。そのことに気づいて荒れた。目標を設定し、そこに向かって努力する。その毎日が人生だ。そうでない人間にはただ生活があるだけ。生活の程度は違っても、なるべく楽に事が過ぎればいいというマインドは同じである。
▼「早く今やっていることを片づけて横になってテレビ見ながら一杯やりたい」一日単位でそう思うのが日雇いで、「年度末まで頑張れば…」と思っているのが今の僕。従って日々はただ過ごすもの、あらゆる仕事はやっつけにならざるをえない。こんなんで若い人の尊敬を得られるはずがない。そんな僕の背中を見て育った上の子が、今その仲間入りをしようとしている。
▼日曜は妻と二人でいつもの韓国料理屋。アボガドのキムチがうまい。

先日訪れた小料理屋で出たアボガドの味噌漬けも超うまかった。アボガドは漬物に向いている。

メインは妻が長らく食べたがっていたタットリタン。先日子どもたちといっしょに食べたのと色が違う。この店同じメニューが日によって違うところも飽きない。

月曜は短いスパンで再びタコ焼に絶品ポテサラで晩酌。火曜は仕事が遅くなり写真なし。

上の子が回復した水曜は土砂降りの中家族で改めて卒業祝いの焼肉。将来を悲観してのヤケ酒かと思いきや、本人曰く①「率先して盛り上げようと思って」②「昼飯食ってなくてすきっ腹だったから」とのこと。どこまで心配すればいいやら。