住まいという小宇宙

しかし静かで気持ちのいい夜になったもんだ。ネットでブラックホールの位置が判明したというニュースを見かけた。僕は長生きしても百年という時間感覚で生きているので光年単位の宇宙の話はあまりピンとこないんだけど、こんな秋の夜長には星空を見上げて遠い宇宙に想いを馳せるのも悪くないね。
▼僕は今、被災地であまり評判のよくない仮設住宅と似たような間取りの社宅に住んでいる。団地や一軒長屋などの集合住宅はほとんど同じ間取りだろう。すなわり3Kないし2LDK。こんなことを言うと怒られるかもしれないが、父が建てた持ち家に住んだ中高生の頃以外はずっと官舎、下宿、団地、社宅などの借家暮らしなので、新品の家電がそろったピカピカの仮設住宅は正直羨ましいくらいだ。
▼現在の住まいは、三つある部屋のうちひとつを居間、ひとつを子供部屋(=物置)、ひとつを寝室にしている。高1の長男から小6の下の子まで、家族4人で同じ部屋に寝る。年ごろの長男を筆頭に、妻と子供たちが一斉に「家が狭すぎる。引っ越したい」と言い出した時期があったが、またピタリと何も言わなくなった。きっと忘れてしまったんだろう。
▼六畳の寝室は、ダブル一枚とシングル二枚を敷くと完全に布団で埋めつくされてしまう。その布団の海で、まず下の子が溺れ、家族全員が次々に吸い込まれてゆくのにそんなに時間はかからない。この強力な引力には誰ひとり抗うことができない。
▼寝相の悪い子供たちは、布団の端から端まで一晩かけて回遊する。
狭い部屋みんなで寝れば広い川
これは俳句ではなくて、下の子の家族を題材にした標語の宿題を考えてあげたもの。日頃「ぼくは楽しかったです」みたいな作文しか書いてないのに、親が作ったってバレバレだね。
▼夜中に便所に起きると、妻と二人の子供はたいてい同じ形で同じ方向をむいて眠っている。大きさの違う三つの餃子のようだ。またしばらくして起きると、少しずつ回転してやっぱり同じ角度をキープしている。子どもというのはいつまでも母親の胎内時計の影響下にあるんだな。
▼友だちのうちに泊りにいったりするようになって、うちの子たちが一番に言うのは「布団がうちとちがう」ということだ。僕の友人たちも、冬にうちに泊った時など「あったかいね。電気毛布?」ときいてきたりする。先月買い替えるまではホントにいいものだったのだが、ニトリで買った廉価モノもすぐに「うちの布団」に変身した。
▼その理由を唯物論的に言ってしまえば、気持ちよく眠るために布団を毎日ベランダに干したり、枕カバーやシーツをまめに交換することを妻がいとわないからだが、それだけでもないような気がする。なんにせよ温かくてふっくらした褥を備えた寝室は、妻の胎内を模した小宇宙のようだ。こんなところにもブラックホールがあったんだね。
▼さてうちなる天体観測はこの辺にして、今日のウチゴハンは手巻き寿司。

昨日から宣言していたのに仕事から帰るとまた妻が言うので「知ってるよ。昨日言ってたじゃん」と言うと、妻が「おかしいね。こうちゃん(下の子)に言ったら初めて聞いたみたいに大喜びしてたよ」だって。これは手巻き寿司に対する期待値の差だろう。


納豆巻きや刺身と大葉を巻いたスタンダードなものから、豚肉とゴーヤを巻いた沖縄巻きまで種類も多彩。

僕はこれにカニカマとキュウリのサラダ巻と、仕上げに全部のせの計5本も食べてしまった。ダイエットでウイークデーはビールを飲まないようにしているが、お茶でも十分楽しめた。
▼子どもたちのおたのしみに買っておいたデザートのピノに、アタリのラッキースターが入っていた。

「願いのピノ」というらしい。それじゃあ僕たちも星に願いをといこうかね。仮住まいから見る星も、家族といっしょならラッキーじゃないのかな。

When You Wish Upon a Star

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