秋の気配
台風一過。朝晩は驚くほど涼しくなった。日中はまだ焼けつくような陽射しが残っているが、空気は乾燥している。空はすっかり秋模様だ。台風が夏ごとごっそり持っていっちゃったね。暑さも一息ついた安堵感の中に一抹のさみしさを感じる。それが秋だ。子どもたちも気持ちがいいのか、夜は早く寝つき、朝はなかなか起きてこない。
起きぬ子の頬を過ぎるや秋の風
▼女心と秋の空って言うけど、そういや僕が若かりし頃に恋したマドンナたちも不思議と9月生まれが多かったな。もう二十年以上も音信不通だから、ホントに青春の一時期の片想いにすぎないんだけど、そのほんの数か月の間の数回の逢瀬はみな忘れ難き想い出だ。それぞれが、今の変哲のない日常の数年分以上に濃い時間だった。今では彼女たちも、二十年という歳月に相応の年齢を重ねたことだろう。
▼「再会の食卓」という台湾(中国?)映画を観た。
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▼現在の夫とは、ただ生きていくためだけに結婚したというヒロインは、いったんはかつての恋人と台湾海峡を渡る決心をする。が、普段は倹約家で大食漢の人のいい夫が、市場で一番大きな上海蟹と、とっておきの酒で客人をもてなしながら、自分は次第に食が細っていくのを見て、やはり夫の元にとどまることにする。
▼愁嘆場は型通りのもので、お涙頂戴の展開を期待する人は肩すかしをくうかもしれない。家の前にテーブルを出して、家族全員で開く最後の晩餐も、歌の得意な恋人がお別れの挨拶代わりに歌い出したとたん雨が降り出すシーンに象徴されるように、ドラマチックな要素は丁寧に排除されている。まるでセンチなイベントより陳腐な日常の方が価値があると言わんばかりだ。
▼マストロヤンニとソフィアローレンの往年の名作「ひまわり」と似たようなテーマである「時間」に、映画は正反対の光をあてる。
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▼だがこの映画が僕に与えてくれたのはそんな説教じみた教訓ではない。青春の一時期すれ違ったミューズたちが、数十年の時を経て僕に会いにくるという夢想だ。今から思えばバブルってのは、国共内戦以上に恋人たちが生き別れになるリスクの高い時代だった。男も女ものぼせあがっていたんだな。そして糟糠の妻と突然目の前に現れたかつてのマドンナとの間で揺れる僕。こんな夢想をするようになったら、もう秋だ。
▼まあ僕は現在の妻との生活が愛のないものだとは思ってないけどね。
(チャプチェとパンの耳サラダ。今夜のウチゴハンも最高でした!)
そしてかつてのマドンナに会わない方がいいのは「坊ちゃん」の続編を書いた小林信彦の「うらなり」に詳しい。
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