ハッキリかたをつけてよ

連休後半初日。雲ひとつない青空が広がっている。だが風は思いのほか冷たい。朝晩は寒いくらいだ。
▼早くも今月1日から始まったクールビズ。テレビでは公官庁で働くポロシャツ姿を映していたが、見ているこっちの方が寒くなるような気温である。作業着の下に開襟シャツの僕なんかは年中クールビズみたいなもんだが、その僕もさすがにここ二、三日は制服の下にトレーナーを着込んだ。来月からはさらにかりゆしルックのスーパークールビズに進化するらしい。6月1日はきっと梅雨冷えの寒い一日になるに違いない。
▼毎年このニュースに接する度に、お役所の習い性とでもいうべきものに呆れてしまう。この寒さに半袖なんて杓子定規にもほどがある。こんな融通の利かない連中にきめ細かな行政サービスを期待する方が無理だ。コワイのは人のために作られた規則に人の方を合わせようとする鈍感さだ。自分たちが唯々諾々と従ってるからといって、みんながみんなガマンできるほど鈍感なわけじゃないのだ。
▼僕も結婚したての頃、家庭のために安定を求めて政令市の行政職を受けたことがある。真夏にもかかわらず、二次の面接会場は一人の例外もなくネクタイに上下の背広姿。ノータイ、チノパン、上着なしのクールビズは僕だけだった。結果は言うまでもないが、負け惜しみじゃなく、僕が働く場所じゃなかったと今は思う。
▼さて、昨年11月6日に悲劇的な結末を迎えた逗子ストーカー殺人事件のルポが、NHKの深夜帯で再放送されていた。八年前に知り合った彼女と別れた後、数年に渡るストーカー行為を繰り返した挙句、被害者が結婚、転居した先の住居に押し入って刺殺し、自分もその場で首を吊って自殺した事件である。
▼この事件は、警察が被害女性の訴えを受けて加害者をストーカー容疑で逮捕した際、女性の現住所を特定される恐れのある結婚後の姓や住所を、容疑者本人の前で読み上げる配慮のなさが問題視されたことで記憶に新しい。また、加害者がネット上の質問箱を駆使して被害女性についての情報を調べあげていた点など、ネット上の善意の第三者による犯罪者への情報提供をどう防ぐかという課題も浮かびあがった。
▼番組は、これらの問題にあまり多くを割いていない。冒頭でさりげなく、取材スタッフが事件前に被害者と接触していた事実が明かされるが、驚くような事実はそれだけで、センセーショナルな内容を期待する視聴者は裏切られることになる。取材スタッフは被害者サイドだけでなく加害者サイドにも丁寧に取材を重ね、二人の関係性の変化や、別れた後の加害者の心の軌跡、ストーカー行為に晒されるようになってからの被害者の対応など、主に二人の心の動きに焦点をあてる。
▼そこでは警察にしろ行政にしろ、被害女性の救済に実質的に役に立つような組織なり制度がほとんど機能していない実態を描くと同時に、別れた後うつや不眠を訴えて受診した精神科の対応をきっかけに、女性への逆恨みを募らせていく加害者の心理を紹介しつつ、ストーカーの心のケアに関する専門家が皆無である現状も明らかにされる。だが社会的な環境整備の遅れだけがストーカー問題への対応を難しくしているわけではない。
▼おそらくは被害女性の夫であろう遺族は「最終的にはストーカー本人が救われないと本当の解決にはならない。そうでないと被害者はいつまでも逃げ隠れしていなければならないことになる」と語る。また、女性の相談を受けていたカウンセラーは「被害女性が否定的で実現しなかったが、収監中の加害者に直接あって解決を図る方法もあったと思う」と言う。これらのコメントは、この問題が被害者側が逃げていては解決できないことを示唆している。少し酷な言い方になるかもしれないが、被害女性には、夥しい数の不穏なメールが送りつけられてくるようになる前に、何度でもケリをつけにいく勇気が欠けていたのかもしれない。
▼加害男性へのアプローチとしては、親でも友人でも誰でもいいから誕生パーティを開いてやればよかったと思う。事件のあった11月6日は男性の40歳の誕生日である。彼が自分の誕生日に合わせて凶行に及んだことは間違いない。自分がこの世に生を受けた日を、自分自身の手でこのようなおぞましいアニバーサリーに仕立て上げなくてもいいように、誰かが彼に「誕生日おめでとう」と言ってやればよかった。彼女にフラれた日から、彼の時間は止まっている。誰かが声をかけてやっていれば、止まっていた時間が動き始めたかもしれない。
▼ナマ魚が嫌いな長男が一足先に連休後半の合宿に出かけたので今日はスシロー。

明日からは下の子も合宿で夫婦水いらずだ。妻は「やっとゆっくり眠れる」と喜んでいるので起こさないようにしなければ。