ノベンバーステップス

11月になった。今年も残すところあと2か月。早いものだ。台風以来の好天も、この週末は湿りがち。乙女心と秋の空といい、秋に三日の晴れなしというが、今週も秋らしく変わりやすい天気になりそうだ。雨が降らなくなったら、冬の到来である。
▼朝晩の気温差にやられて下の子が風邪をひいた。たいしたことはないが、彼は病院に行って安心するタイプなので妻が連れていった。馴染みの看護婦さんに「大きくなったね」と言われるほどに、野球部に入った下の子は見違えるほど痩せて体型が変わったが、人の持つ印象というのは変わらないものらしい。
▼妻が帰ってきて可笑しそうに話す。お医者さんは診察の後、下の子の顔をのぞき込んでこう言ったそうだ。「じゃあ二種類あるトローチのうち甘くておいしい特別なやつの方にしとこうか。イチゴ味の」下の子のポカンとした表情と子供らしい雰囲気がついそう言わせてしまうのである。
▼そうでなくても早い寝つきがますます早くなり、夕飯を食べるとすぐに寝てしまう。19時から6時まで、一日の半分は眠っている。学校があるから起きるだけでなければもっと寝ているだろう。間歇的でないだけで、ほぼ赤ん坊と同じくらい眠っている。大丈夫かなと思う時もあるが、まあ寝る子は育つというから放っている。
▼第七戦までもつれた日本シリーズはマーくんの連投という劇的勝利で幕を閉じた。球界の横綱巨人を、がっぷり四つの力勝負の末退けたのは、やはり選手たちが東北への想いを力に変えた結果だろう。巨人の「40年ぶりの連覇」なんて内輪の理屈とはモチベーションの次元が違う。このシリーズは戦う前から勝負はついていた。人は「誰かのために」最も力を発揮する生き物なのである。
▼神様仏様田中様の仁王立ち、小さなマーくん新人則本の踏ん張り、MVP美馬のポストシーズンに入っての大化け、一番岡島二番藤田三番銀次の星野チルドレンの活躍と見どころ満載のシリーズだったが、僕が一番感じたのはミスやエラーが多かったこと。その一番の理由はシリーズに入って一段と気温が下がったためだと思う。みんな寒くて身体が思うように動かなかったに違いない。
▼昔は日本シリーズといえばデーゲームだった。この時期の昼夜の気温差は一年で一番大きい。秋とは極端な話、昼は夏で夜は冬のことである。おそらくテレビ放映の視聴率の関係で全試合ナイター中継になったのだろうが、大きなケガをする選手がいなくてよかった。もう野球をやる季節じゃないということだね。
▼球場に来ていた楽天三木谷社長星野監督と抱き合って握手するのを見て、なんともいえない感慨が去来した。本当に時代は変わったと思う。ホリエモン近鉄買収騒ぎに始まる球団創設から9年。ダイエーソフトバンクに身売りして10年。阪急がオリックスになり、ロッテが千葉に、日ハムが札幌に本拠地を移した。
▼鉄道、小売グループからIT金融関連企業へと球団のオーナーも様変わりし、チームカラーもサッカーと見まがうほどローカル色が増した。それは現実の東京一極集中や地方の凋落傾向と表裏の関係にある。そして晩秋を迎えた日本にとってのプロ野球も、途上国の貧しい人々にとってのサッカーと同じように、子供たちに夢を、大人たちに勇気を与えてくれる本当の意味での娯楽へと変貌を遂げつつある。要するに実際には夢も希望もない現実社会のガス抜きの役割である。
▼時に秋ドラ視聴率戦線トップは米倉涼子主演「私、失敗しませんから」のドクターXだそうである。「倍返しだ!」の半沢直樹が紅白並の記録的視聴率を打ち立てたのは記憶に新しい。代わりに苦戦しているのはコメディやホームドラマの類である。現実世界の鬱屈を、何かに仮託して溜飲を下げたい人がいかに多いかの証左である。
▼人間は共感の生き物でもある。巨人大鵬玉子焼きの時代に圧倒的に巨人ファンが多かったのは間違いないが、昨夜の日本に楽天の優勝を喜ぶ人の方が圧倒的に多かったのもまた確かなことのように思われる。楽天が優勝して溜飲を下げる人が多いということは、悲惨なのが被災地の人だけではない日本の現状をよく表している。

火曜は生姜焼きに五穀米にカボチャスープ。

水曜はキッシュに生姜チキンに白菜の酢の物。

木曜は牛丼にハム大根酢。

金曜研修会という名の親睦会の後の土曜は天丼。