みたび巨象に挑む

節分に早くも雲雀の声を聴いたかと思えば、立春の今日はみぞれ降る真冬に逆戻り。季節の歩みは必ずしも暦通りとはいかない。だがそうやって暦と実際の季節の推移を比較するのもまた楽しい。
節分の豆をつまみに雲雀くる
▼上の子が万引きで捕まった。制服姿で立寄ったコンビニで友だちに誘われ、整髪料をポケットに入れた場面がしっかり防犯カメラに映っていたらしい。自分を持っている子なので、そんな誘いに応じたのが不思議だが、魔がさしたのだろう。一年次にクラスメイトをボコボコにし、二年次にいじめの加害者として、そして今回の万引きと、これで全学年まんべんなく謹慎処分をくらったことになる。これだけきくとどんな不良少年かと思うかもしれないが、ごくごく普通の子供である。
▼学校に呼び出された日、いじめ濡れ衣事件の時のように理不尽なことがないように、妻といっしょに同席はしたが、彼の不利にならないように、いじめの時のように先生に反論はしなかった。「まだ正式な処分が決定したわけではない」「卒業できない可能性もある」「中には退学措置等の厳しい意見を言う人もいた」という。学校側は進学先にこの件を通知することだけは決定したようだ。「合格が取り消される場合もありうる」らしい。
▼自分の希望する進路が閉ざされる可能性を示唆されて彼は大泣きしていたが、僕からすればちょっと大袈裟すぎやしないかという感じだ。もったいぶってはいるものの、何ひとつ決まったことはない。単なる脅しである。そもそも過去二回についてはこちらが被害者だし、今回もほんの出来心だ。
▼おとなしくきいていれば「こちらとしては事実を伝え、あとは大学側の判断だ」とか「仮にどんな結果になっても高校側に金銭的な保障義務はない」とか「事実を伝えないで万一大学側が知った場合を考えると申告せざるをえない」とか組織防衛の話ばかりである。処分保留で一週間も自宅待機させていた間中こんな保身のための理論武装の話合いをしていたかと思うと、三流校は教員も三流だと呆れるほかない。まあ保身に汲々とするのは一流も三流もいっしょだが。
▼親バカかもしれないが、この子はそんなに悪い子じゃない。年ごろの子供が早々に進路が決まり、あとは卒業を待つだけという状況が長く続くことがいいはずがない。この件を知った時、超多忙だったこともあるが、僕は正直悲しみも怒りも感じなかった。今だって、どうなろうと自分の行為の結果は自分で背負うしかないという醒めた気持ちがあるだけである。僕はちょっとおかしいのだろうか。
▼自分の子供だから、この子のいいところも悪いところもよくわかっている。一番悪いのは、僕に似てあまり勤勉じゃないところ。努力するのが嫌いで、楽な方に逃げるナマケモノだ。でも僕自身がそうなのだから彼を怒るわけにはいかない。むしろいいお手本になれず申し訳なく思う。今回の件は仕方ないが、ほとんど悪くないのに三回も停学になるような間の悪いところも僕に似ている。無防備で脇が甘く、要するに総領の甚六なのである。
▼面談で妻は、大学にこの件を伝えることをどうにかならないかと訴えていた。被害者のコンビニの経営者が、将来のことを考えて表沙汰にしないと言ってくれているのに、学校がわざわざ申告する必要があるのかと。入学取消云々より、入学した後この子がそういう目で見られると思うとつらいと。男の僕などが思いもよらない発想である。母親だね。
▼事件後、本人が最も会って謝りたかったであろう部活の顧問に、会うことを禁じられていたという対応も理解に苦しむが、その顧問に、「親御さんの方から何か言いたいことはありませんか」「今後の対応についてよろしくお願いしてほしい」とうながされ、面会することになった。どこまでも、自分たちが考えるストーリー通りに進行してほしいようだ。
▼面会した若い顧問には好感が持てた。僕が「卒業するまで部活してればよかった。人間ヒマだとろくなことしない」的なことを言うと、「それだけじゃないでしょう。厳しいことで定評のある大学だから、彼もプレッシャーを感じていたのかもしれません。フォローしてやれなくて、僕も後悔しています」と言った。僕は自分が思いもよらない感想をもらす人が好きなのだ。
▼さて、恒例の三菱ケミカルHD社長のコラムだが、またイノベーションの話である。連載開始以来これで三回連続だ。今回は遺伝子工学の話。生物の持つ強力な自己再現性「蛙の子は蛙」に抵抗して「変化」するには、進化の長い時間を経るしかないと思っていたが、話題のリケジョ、コボカタさんの発見で、一気に初期化が可能になった…ってなんのこっちゃい。「百年後の人類社会への貢献を目指して」というコボカタさんのコメントの方がずっとマシだ。蛙の子は蛙でけっこう。

日曜は和風ハンバーグにミネストローネにカニサラダ。

立春の今日は春菊のおひたしにモッツァレラと菜っ葉ともやしのサラダにビーフオンガーリックライス。