フクシマの真実

朝、うちの近くの田んぼに水が張られていた。「もう田植えの季節だな」と思いながら出勤した。帰るとさっそくつがいのカモがきていた。買物帰りの妻とちょうど鉢合わせたので教えてあげた。じきに二羽ともいなくなり、やがて一羽がコガモを連れて戻ってくる。毎年のパターンだ。ここに十年住んでわかってきたことだ。あと十年いればカモそれぞれの違いもわかるかもしれない。
▼時間的にかなり余裕があるのだが、経済的にあまり余裕がないのでうちでテレビばかり見ている。ドラマかバラエティで面白いものがあればそれを見るが、昨日はニュース9から報道ステーションに流れた。話題は韓国沈没船事故でパククネ大統領涙の謝罪。数年前(よりもっとずっと前)からシャブ中ASKAの続報。PC遠隔操作事件で保釈中の片山被告痛恨の自爆メール。公明党集団的自衛権に慎重姿勢。「美味しんぼ」福島の真実編最終話掲載のビッグコミックスピリッツ
▼日曜午前の報道番組で情報を得ていた僕は、昨日このスピリッツ最新号を買ってみた。既に夕刻で、これだけ話題になっているのだから、もうないかもしれないという頭はあったが、最初に立ち寄ったコンビニであっさりゲット。東京ならこうはいかないだろう。これが震災から3年が過ぎた地方在住の平均的日本人の、この問題に対する関心の現状と捉えて構わないと思う。その意味では、作者の「もう一度みんなで考えてみようよ」という問題提起は的外れではない。
▼今号で休載が決まっている「美味しんぼ」自体は、最終話にありがちな紋切型のセリフが多く、あまり面白いものではなかった。本編に続いて、鼻血などの表現について専門家や関係者など13人のコメントが掲載されていた。そのうち僕が全文に目を通したのは6人目の崎山比早子さんまで。あとはめんどくさくなってやめた。たぶんもう読まないと思う。何ミリシーベルトならどうこうという議論は、科学的には正確かもしれないが、一般人の心には響かない。
▼科学的に正確な言葉を普通の人にわかるように説明するのは、本来は行政の役割だ。その説明がないから当事者は不安になるし、部外者は忘却する。しかしそれを漫画家が代行すると気に入らない。中央政府から各自治体まで口をそろえて「風評被害を助長する」とか「住民への配慮が足りない」とかフタをする発言ばかりが出る。大本営発表か御用学者の追認発言しか認めたくないなら、マンガをはじめとする大衆メディアの存在理由はなくなってしまう。
▼昨日の報道ステーションと今朝の日経朝刊で、福島県甲状腺ガンになった子供の数が50人と報じられていた。普通子供の甲状腺ガンは10万人に1人の割合であるのに対し、福島の50人という数字は6千人に1人にあたる。驚くべきことに検討委員会はこれをスクリーニング効果(精査すると確度があがること)としたのである。
▼同様に、チェルノブイリでは子供の甲状腺ガンが事故後4、5年目から急増しているので、まだ3年目のフクシマは関係ないとか、科学的には100ミリシーベルト以上被曝しないと人体に影響ないはずだからという理由で、現時点で(今後増える可能性大)福島の子供50人の甲状腺ガンが確定している事実を「放射線の影響とは考えにくい」と結論づけている。彼らは専門家の良識を守って人間の良心を捨てた。ていうか単に思考停止した。
▼科学的か非科学的か知らないが、曲解といえばこれ以上の曲解もないと思うのは僕だけだろうか。鼻血や倦怠感との因果関係も同じことだ。日本には高線量被曝以外の被曝は存在しない。なぜなら科学的に証明されていないから。(国にとって都合が悪いから。)オシマイ。こんな曲解がまかり通るなら、憲法だってなんだってどうとでも解釈できるだろう。
▼断っておくが、僕は今怒りに震えて告発しているわけでもなんでもない。これほどの事実の歪曲、見て見ぬふりを前にして、素直に驚いているだけである。ホントにこの事態を誰もなんとも思わないのだろうか。
▼震災直後に福島第一原発メルトダウンし(当初は政府もマスコミも専門家も否定していた)、大量の放射能が放出され、高いか低いかは別にして確実に被曝した子供がいて、福島では他の地域より甲状腺ガンの子供が増えている。これは事実だ。
▼国にとっては、かなり後になってからという時間軸が大事なのかもしれないが、科学的因果関係の証明なんかどうでもいいし、ここで福島の住民への配慮を持ちだすのも間違っている。事実を言ってみたところでどうしようもないということと、事実を歪曲することは、全く別のことだ。今に始まったことじゃないが、この国は完全に意図的に国民をミスリードしようとしている。そしておそらくかなり多くの国民も盲目的に追随しようとしている。
▼いかん、相当ヒマだよ。ヒマだと謀略史観に囚われやすくなる。実際報道エンタメは、僕らの人生が絶望的に退屈であることから目を逸らせるための、誰かのよくできた宣伝映画に思えてくる時がある。これも謀略史観か。でも自分の人生に直接関係ないニュースに一喜一憂してもしょうがないのもまた事実だ。

昨日は肉味噌丼。

今日はジャンボハンバーグ。