大先輩、逝く

蒸し暑い日が続いている。土曜の雨の後は連日30度を超える真夏日だ。
▼さて、今日は当社の決算日であり、待望のボーナス支給日である。大事な査定時期に大失態が続いた上、トドメに免停をくらって正直大幅減も覚悟したが、蓋をあけてみれば微増。全体として会社自体が好業績であること、アベノミクス効果で日本全体も上げ潮であることなどで、個人的なミスが相殺されたのかもしれない。子供たちが何かと物入りな時期だ。微増は最低ラインである。
▼今期を振り返ると、逆風の中、数字の上ではよく頑張った。ただ守勢一辺倒だと思わぬ綻びが生じる。全体的には社内外で個人的な信用を失った一年となった。通常の状態であれば、かつてない売上と利益をものして一気に飛躍するチャンスの年になっていたかもしれないが、そんな器じゃないということかな。逆風は、「実力が追いついてないと自分が困るだけだよ」という神様の粋な計らいの神風だったのかもしれない。また仕切り直しだ。
▼さて、7月の車検で乗り換えることが決まっている愛社用車ムッスー号。先週、少し早いが免停前の最後の日に車内を整理して会社の専属ディーラーに返納した。ムッスーから使っていた道具ごと譲り受けて以来、4年半の長きにわたり苦楽を共にしてきた僕のロシナンテである。あちこち凹み、テールランプも割れ、あとほんの少しというところでブレーキパットの音も鳴り出して満身創痍だ。
▼話は変わるが、昨夜フジのMr.サンデーで、たけし軍団ダンカンの愛妻明美さんの告別式の模様を報じていた。享年47才。9年前に乳がんを発症。主治医は両胸の全摘を勧めたが、できる限り残したいとの思いから片方を温存し3年後に再発したことが悔やまれるという。番組では女性の12人に1人が罹患するという乳がんについて、多くの時間を割いていた。
▼そして今日、現場で作業指示を終えて一息ついたところで、会社からムッスーの訃報を伝える一斉メールが届いた。本日自宅で通夜、明日正午より告別式である。やめてすぐはちょくちょくアルバイトをお願いしていたのだが、かなり嫌そうだったのですぐに頼むのをやめた。それからはヒマな時に気まぐれに畑仕事をしている先輩をたずねて世間話をするのを楽しみにしていたのだが。いつ寄ってもとれたての野菜を山ほどくれるので、恐縮してここんとこ足が遠のいていた。
▼試みに過去ログを遡ると、2012年の正月のお土産を持っていって以降の記述がない。モリチャンの通夜で会い、会社の忘年会に招待されていたのも確かその前年だったから、もう2年半ご無沙汰していることになる。最後に姿を見たのはいつだったか。割と最近のことだ。彼のところに寄るつもりで畑の前を通りかかったところ、直前に仕事の電話が入り、トラクターの上から手をふる彼に「またきます」と声をかけて通りすぎた。その時は元気そうに見えたが、人の命はわからない。
▼ブログを書いていると、モリチャンの時にも電話をくれた下請の親方からまた電話があった。「最近ご無沙汰してたからなあ」と言うと、「ああ、そのせいだな」「最後に通りかかった時話せなくて」と言うと、「それでがっくりきたんだ」と脅す。けど本当にそうだ。あれだけ可愛がってもらっておきながら、僕はなんて薄情な人間なんだろう。
▼奥さんと話した親方によると、前立腺がんは治ったらしいが、3ヶ月前に直腸がんで人工肛門になり、一週間前に「あと一週間」と言われて本当にあっという間だったそうだ。そして2年ほど前に家を壊す話があった時に話したのが最後だったと言った。
▼それで思い出したのだが、その時僕以上にムッスーと関係の深かった社長にその話をふってすっかり忘れていたのだが、よくよく考えればあれは最初僕のケータイにかけてきたんじゃなかったかしら。実際彼は社長、そしてその次は僕の現場のお守り役だった。

土曜はカルボナーラにアボガドサラダ。ムッスーの野菜がうちの食卓を飾ることは、もうない。日曜は下の子と妻が部活の夏の大会の決起集会BBQに参加してひとりカップラーメン。今日から下の子が野球塾に通い始め、送迎の足をとられて免停の僕は通夜に行くことができない。もう一度、生きているうちに話がしたかった。ムラさん、お世話になりました。明日、会いにいきます。