陸鯨

まだ数時間前だが、昨晩は例によって担当事業所の台風養生。以前は自宅待機だったので、うちにいるのに晩酌できないのがツラかった。今はもう晩酌しないので自宅待機でもいいのに、最近は構内待機が多い。朝のめざまし占いで「目立とうとして大失敗。脇役に徹すべし」とあったので、最低限言われたことだけやるよう心がける。
▼先週あれだけヒドかったのでどうなることかと気を揉んでいたが、うれしい拍子抜け。台風が通り抜けるのを待たずして解散となった。台風は上陸すると途端に勢力が弱くなる。上陸前は900hpそこそこのスーパー台風が見る影もない。まるで陸にあがった鯨、オカクジラだな。中学の柔道部の先生が、体格のいい部員を叱る時に好んで使っていた言葉だ。
▼未明にうちに帰り、家人が寝静まる中ひっそりとこのブログを書いている。この10月で足掛け4年。もうコメントやはてなスターやページヴューが爆発的に増えることは期待できないが、それとは別の意味でブログは僕にとって何物にも替えがたいものになっている。上の子の進路、両親の老い先、現在の仕事、僕自身の将来…ままならぬ人生に忸怩たる思いを抱えながら、それでもヤケをおこさず比較的平静でいられるのも、ひとえにこの内省の習慣のおかげだと思う。
▼大きな工事が終わり、またしばらく工事は土日だけになる。今週いっぱい完成書類をやって、来週からポツポツ平日に休みをとっていこうと思う。しばらくはあまりせせこましく目先の仕事を追いかけるのはよそう。そして食欲の秋、芸術の秋を妻と二人で存分に楽しもう。今にして思えば、妻との結婚は僕の人生で唯一最大の成功となりつつある。
▼そんなわけで金曜のプチアゲに続き、土曜も竣工祝いに妻とデート。前回デートの焼鳥もどきのリベンジに正真正銘の焼鳥屋へ。ここでもまた妻が鳥一羽丸揚げを注文しようとして危うく俺のイタリアンの二の舞になるとこだった。「あー私もあんたの悪いとこが似てきた。食い意地が張ってるとことか他人のせいにするとことか」と食い意地が張ってることを他人のせいにしていたが、その通りなので何も言えない。
▼お酒を飲まない妻がジュースのようなカクテルを一杯舐めている間に生ビールを二杯飲む。

枝豆にサラダに焼鳥の盛合せに妻念願のレバーなどアラカルトを交えてサクサク食べ進め、お勘定。二軒目は妻が僕の行きつけにだけは行きたくないと言うので、仕方なく初めてのバーに。「疲れてるのになんであんたの知り合いに愛想ふりまかにゃならんのね」ごもっともです。
▼ところがこの店が大当たり。前から行ってみたいと思っていたのだが、シングルモルト中心の本格的なバーである。店に入るとバーテンが、奥にひとつだけあるソファ席まで僕らを案内し、テーブルのランプに火を灯す。いい感じだ。ラフロイグボウモアが好きだと伝えると、同じアイラのラガヴーリンを出してくれた。妻は今月のカクテル、マスカットのフローズンなんちゃら。ひと口もらうと皮の香りが強烈な逸品である。

▼カウンターの一人客が帰るのと入れ替わりにカップルが一組、団体客が二組入り、テーブル席はすぐ埋まったが、店内はとても静かだ。お酒と会話を楽しむために音楽も流していないという。疲れた身体がゆっくりと弛緩してゆく。こんなにお酒をうまいと感じたことは一度もない。ママも女の子もいなくていい。お酒の楽しみ方を初めて知った気がした。
▼二杯目は「アイラ島以外で。といってこれに負けないものを」とリクエストすると、ハイランドのグレンロドナック(これで合ってる?)を選んでくれた。甘く芳醇な香りがする。隣りに座っている妻の方が先に気づくほど強い香りだ。まさにアイラのアクの強さに負けない、けれども全く系統の違うリクエスト通りの風味である。通いそうだ。この店には誰もつれてくるまい。
▼「ダラダラ飲んでもしょうがないでしょ」19時半に飲み始め、二軒目を出てもまだ21時前。充実した時間は、物理的な時間の長短とは関係ないのだ。また妻に教えられたね。妻もデートの模様をFBにアップしてご満悦である。なんだか妻を喜ばせるためだけに生きてるような気がしてきた。そう言うと、「あら、それ以外に何があるの?それが一番幸せでしょ」と言われてしまった。まあ僕も妻の手のひらに上がったオカクジラのようなものだ。
▼そしてさらに日曜も、仕事が終わった後、妻とショッピング&外食してしまった。出がけにめずらしく母から電話があった。僕は自分へのご褒美が多すぎるかもしれない。