それぞれの春

大雨の一日である。世間一般は入学式の日だが、今年は雨にたたられたな。今度こそ本当に花散らしの雨だ。雨風に関係なく桜は入学式に散るということだね。
▼一昨日、2週間ぶりに妻が実家から帰ってきた。帰るなり「子どもたちがずっと家にいて片づけの邪魔」とメールが入る。2週間分の埃を払う気満々の妻の前でそれぞれテレビを見たりスマホをいじったりすっかりくつろいでいるらしい。動物か。その晩仕事で遅く帰ると小鳥の餌のようなゴハンしかない。「たくさんあったけど子供たちが全部食べてしまった」そうだ。それまで全く動きがなかったのに、ゴハンが出ると物凄い熱気だったという。動物だ。
▼下の子が自転車を点検に出して2週間近く足がない。実は中学の時乗っていたのがもう一台あるのだが、上の子がまだ車がない時に借りて乗り回してパンクしているのだ。そこで下の子が「なんで壊した人が直さない!」と癇癪を起すが、上の子は全く取り合わない。亡くなったお義父さんの車に乗っている上の子に、今さら自転車を直しに行く気などさらさらない。ただ自分の車で送り迎えするのはOK。そのうち下の子も丸め込まれて忘れてしまう。
▼昨日が始業式だった下の子は、春休み中ずっと陸上トラック併設の市内の桜スポットの公演で練習。毎日満開の桜のトンネルの下を走るなんてうらやましい。「もう後輩できた」と喜んでいる。彼は先輩にも可愛がられるタイプだが、自分が下だからなのか後輩が欲しかったようだ。一方来週の月曜から出社の上の子は最後のバイトに勤しんでいる。年配のバイト仲間からうらやましがられているらしい。いい年して定職につけない彼らに比べれば正社員になれただけでも幸せだ。
▼シャープや東芝の例を持ち出すまでもなく、今は一般に大企業だと思われている会社だって明日どうなるかわからないご時世だ。ワタミユニクロのような大会社だってブラックを疑われている。小さくても地場の老舗の会社の方が内実はずっとマシかもしれない。それでも気に入らないなら、それは子供を心配しているのではなく、自分の見栄や世間体の類だろう。僕は俗物だ。
▼一年のうち比較的ヒマな時期である4月は、例年社員旅行や休暇にあてられる。今年は特に仕事が薄く、管理職以外の社員は4分の1ずつ4週にわけて1週間の休暇をとることが決まった。期末まで工事がパンパンで休んでいなかった僕は、さっそく第一週から休むように言われていたが、一日に一件は客先となんらかの打合せなり約束が入っていてなかなか休むことができない。
▼現場仕事でない限り、つまりは自分のお客さんを持っていれば、1週間まるまる休むというのは難しい。ローカルの小さな土建屋なら、それが管理職の仕事ということになるが、僕は管理職ではない。そして年下の管理職から「休みがあっていいな」と嫌味を言われる。けして気分のいいものではない。まあこれも見栄や世間体の類にすぎないが。僕も俗物だ。
▼とはいえ現場がないだけでもずいぶん楽だ。水曜は久々に映画鑑賞。ドキュメンタリー「ヤクザと憲法」を観る。

前回のエントリで彼らがいいものを食べ、いい女とセックスし、いい車を乗り回すには悪いことをするしかないと書いたが、認識が間違っていた。全く「ドラマの見過ぎ」だよ。実際はマトモな恰好してるのは親分だけ。あとは組事務所という名のタコ部屋で寝起きするプータローだ。いい生活どころか生きていくだけでいっぱいいっぱいだ。
▼身寄のない者同士、親子兄弟の盃を交わして疑似家族を構成し、互いに助け合う互助会組織。ヤクザとは弱者が生きていくための知恵である。そんな最中の「パナマ文書」騒ぎ。ヤクザのシノギなんてカワイイものだ。一方で少額の保険金詐欺未遂でぶち込まれる者がいて、一方で法の網の目をかいくぐる巨額の脱税行為が許される。世の不公平もここに極まれり。「法の支配」なんてそんなもんだ。
▼今日は定例会議で事故報告の吊し上げ。ケアレスミスで簡単に退場に追い込まれる現代日本社会の縮図だ。毎月2、3件は事故がある。一方でいい年したおっさん(僕)がいつまでも運転事故の現場責任を問われ続け、一方でうまいこと現場担当のお人形さんを立てた営業の若造が、自分に責任はないという態度で偉そうに上から対策を述べる。世の中身のこなしのうまいもん勝ちだ。