東京の休日2016

雨が上がって一夜明けた今日はびょうびょうと強風が吹いている。昨日は夜中まで仕事して今日は休むことにした。今週は休みなんだから。過日、妻と休日恒例の東京ツアーに出かけたので忘れないうちに記録しておく。
▼東京ショートステイも2013春から数えて5回目ともなると慣れたものだ。新幹線素泊りパックのホテルは前回と同じ半蔵門。都心はどこに行くにも便利がいい。タッチの差で前回のホテルがとれず予約したホテルはチェックインしてみるとビジネスホテルだった。まあ安いので文句は言えない。
▼当日たまたま妻の友人の子供が入学式で、着くなり武道館に直行。地下鉄九段下駅から田安門に続くお濠端の道は会場に向かう父兄であふれている。北の丸公園にはテレビカメラが入り親子をつかまえてはインタビューしている。これが日本のエスタブリッシュメントなんだから当然だね。僕らも玉ねぎをバックに記念撮影だ。
▼次に向かったのは妻の大好きな表参道。ひとつ手前の青山一丁目で降りて歩く。外苑前の銀杏並木を過ぎ、やがて表参道の欅並木が見える。雲ひとつない青空をバックに新芽をまとった大樹が枝を揺らしている。素晴らしい眺めだ。雑貨屋と皮製品屋によって帽子とバッグを購入。買ったものをさっそく身につけて喜色満面の妻はぱっと見JUJUである。
▼いったんホテルに荷物を置いて、今秋豊洲に移転する築地市場を目指す。場外市場の活気と呼び込みに負けそうになるが、なんとか振り切って市場の中へ。カモメがたくさん飛んでいる。かなりの大きさだ。勝どき橋の標識が見える。海が近いのだろうか。でもそんな気配は感じられない。

▼地下鉄の駅から駅を渡り歩くだけではその辺のことがわからない。場外市場だけで引き返していたとしても築地のイメージとしては十分だろう。場内の飲食店の並びの天ぷら屋に入る。芝エビが香ばしい。

▼歩いて銀座に向かい、開業したばかりの東急プラザをひやかす。春休みも終わったのに物凄い人出だが、ほとんどは中国人だ。おしゃれなファッションビルも上から半分は免税店でまるでソウルのロッテ百貨店だ。このご時世に銀座にビルなんか建てて大丈夫だろうかと思ったが、もちろん中国人なしに成り立つ話ではない。
▼再び表参道に向かい女子高生に混じってアイスクリームのフリーコーンキャンベーンに並ぶ。

疲れて立っていられない。衰えを痛感する。車を使わない(電車で移動する)都会の生活は体がついてこない。これ以上回るのは無理と判断し、ホテルに引き返して近場のカフェを予約し一日目は終了。


▼二日目は東京駅のコインロッカーに手荷物を預けて行動開始。まずは真新しい八重洲口の地下でモーニング。これでワンコインはお得だ。

周囲もこぎれいな割りにリーズナブルな価格の店が多い。人出さえあればどんなサービスも可能だ。大がかりな工事の割りにできたのは貧相なテントに見えたが、実際はこの地下街を作っていたわけだ。
▼腹ごしらえを終え、上野の西洋美術館を目指す。今回のメインイベントは「カラバッジョ展」だ。初日とは一転ぐずついた空模様である。

公園口から降りると違和感がある。東京文化会館が邪魔をして美術館をヒキで捉えられない。記憶では「戦艦ポチョムキン」のような駅前広場の階段から線路沿いに坂道を上ると西洋美術館の平たいフォルムが現れたはずだが…
▼展示は本邦初公開の「法悦のマグダラのマリア」を含むカラバッジョの真筆11点の他に、明暗の対比やリアリズムといったカラバッジョの手法を模したカラバジェスキと呼ばれる画家たちの作品が並ぶ。表面的な構図やテーマが似れば似るほど才能の差が見てとれて面白い。
▼カラバッジョの魅力は何だろう。モチーフはキリスト教の霊験でありギリシャ神話である。主イエスキリスト、聖母マリア、聖ヨハネバッカス、ナルシス、メドゥーサ…リアリズムといっても、市井の人をモデルに単に精確に写しとっても、それは神ではないただの人だ。神様が見えない人に神様は描けない。そこが幻視者とそうでない者の違いだろう。
キリスト教偶像崇拝を禁じている。だが我々見えない者は、見える者が提示する神様のイメージを頼りにアプローチする方が賢明だと思う。あらゆるイメージを否定して暗闇の中で神と対峙しているつもりの相手は、実は神ではなく自我にすぎないのではないか…学生の頃、そんな愚にもつかないことを話しながらてっちゃん(哲学者)と通った巣鴨。歩いている人が上野に輪をかけて高齢化している。
▼地蔵通りの定食屋はきれいになっていた。かき氷を食べてクールダウン。頭を冷やせってことだね。

15年ほど前、友人の結婚式で訪れた時は同定できなかったが、今回バイト先の事務所の隣にあった材料屋は見つけた。あれから30年近く続いてビルになっている。だが僕らのバイト先は跡形もない。
都営三田線に乗り神保町で降りる。岩波ホールから地上に出ると交差点がある。街並みはあまり変わっていないような気がする。古書センターの2階のカレー屋で昼食。ここもてっちゃん(哲学者)と古本屋を巡った後訪れた店だ。ふかしたジャガイモがついてくる。そうだった、そうだった。

▼そこから先は夕方の新幹線まで妻の時間。渋谷と代官山と中目黒のショップを回り、東京駅に引き返す。四年後のオリンピックまで毎年、東京の定点観測の旅を続けていきたい。