憎みきれないろくでなし

柳田法相が辞任した。「法務大臣はいいですね。二つのセリフを覚えておけばいいんですから」なんて言えば大臣を続けられるわけがない。だがこの発言自体は、決まり文句でも官僚の作文でもなく、正真正銘彼自身の言葉である。
▼この人は、黙って腹話術の人形のように本人の言う「二つのセリフ」を繰り返しておけば大臣の椅子にとどまれたものを、自分の言葉で喋ったがために辞めざるを得なくなったのは皮肉なことだ。
▼柳田氏はズブのドシロートのようだったが、その分野に精通している普通の大臣だって、国家を運営する気概と専門知識において官僚より秀でている人は稀だろう。意地悪な野党の質問に、ぶっつけでその全てを跳ね返すなんて神業に等しい。
▼野党の質問は事前に提出させられ、優秀な官僚が手分けして徹夜で答弁書を書きあげるのはみなさんご承知の通りである。これは国会に限らず地方でも同じことだ。それぞれの自治体でそれぞれの行政職が首長以下の答案をこしらえている。
▼報道関係の友人によれば、テレビというのは始まりから終わりまで全てディレクターが原稿を書いている。もちろんキャスターのセリフも当人を交えた打ち合わせで一言一句原稿が練直される。久米も古館も筑紫もそう。インタビューすら台本がある。予め想定問答があり、こちらが喋ってほしい事が相手の口からこぼれるまで撮り続ける。
▼柳田大臣は辞める直前、官僚に「もっと踏み込んだ答弁ができないか検討するよう指示した」と言っていた。大臣とは官僚の原稿を読むキャスターのようなものだ。官房長官にはそのような役割があるが、その他の大臣も大臣ではなく報道官と呼んだ方がいいかもしれない。
▼思えば過去辞任に追い込まれた大臣はみな人間味に溢れていた。中川泥酔大臣(朦朧大臣兼務)の呂律が回らない記者会見。思想はコワモテだが職責のプレッシャーとストレスでお腹が痛くなって辞めた安倍ちゃん。みな愛すべき弱さを持つ政治家だった。
▼だがその人間らしさを人前に晒した時、人は大臣を辞めなければならなくなる。そういう意味では柳田氏もきっといい人なのだろう。