タイトルで100%読んだ気になる芥川賞

今年の芥川賞朝吹真理子氏の「きことわ」と西村賢太氏の「苦役列車」が受賞した。綿谷りさの「蹴りたい背中」と金原ひとみの「蛇とピアス」以来七年ぶりのW受賞だそうだ。ちなみに僕は若い彼女たちの出世作を読まなかった。タイトルからして全くなってないと思う。今後も手にとることはないだろう。
▼さて今年の受賞者である。朝吹氏は大叔母にサガンの翻訳で知られる仏文学者の朝吹登美子氏を、詩人の朝吹亮二氏を父に持つ美貌の才媛である。受賞式の様子がテレビで流れていたが、物腰に品があり、毛並みの良さが窺えた。線の細い彼女のその横で、デップリと太っている割にそわそわと落ち着きのない男が西村氏だ。
▼まだ作品を読んでいないが、久しぶりに食指をそそられる作者が登場したなという印象である。もちろん朝吹真理子氏の方。これは差別ではなく、文芸は神に選ばれた者のみが編むことを許された特殊な織物のようなものだ。訓練を積めば誰にでもできるようになる類のものではない。朝吹氏にはその資格が十分に備わっているように見受けられた。
▼対する西村氏であるが、「苦役列車」のタイトルにもあるように、その芸風は自虐ネタだ。中卒で様々な職を経験したとかはどうでもいい。森見登美彦?もそうだが、貧乏だろうが学生だろうがなんだろうが関係なく、自虐ネタはみっともないのだ。僕自身も含め日本の男性のほとんどにそういう側面があり、身につまされるとしても、文学はこの種のエンターテイメントとは無縁だと断言する。
▼余談だが、僕がサガンで思い出すのは、まだ若かりし頃、好きな女の子がサガンのファンで、その娘から借りた文庫本を、のぼせた頭を冷ますこともなく一気に読み通したことである。
神田川近くの三畳一間の下宿でウンウン唸りながら、転げ回って読んだ。そのことをおもしろおかしく料理することもできるだろう。そのままでもいい想い出だ。だがそれは文学ではない。
▼「悲しみよこんにちは」「ブラームスはお好き?」「優しい関係」「熱い恋」「冷たい水の中の小さな太陽」…小説が、どんな内容だったかはもう忘れた。恋愛小説には違いない。タイトルだけは不思議と覚えている。後年僕は、サガンの晩年を伝える記事を、彼女の消息のように眺めていた。