大寒

列島が、寒波に覆われている。冷え込みの厳しい冬らしい冬だ。以前開設していたブログにも書いたことがあるが、この季節になると亡くなった友人のことを思い出す。
▼同期のリーダー的存在だった友人の突然の訃報が届いたのは、16年前の年も押し迫ったある日のことだった。年が明けるとすぐに神戸が大地震に見舞われ、三月には地下鉄サリン事件が起きる。バブル崩壊後の暗い世相の下、僕は実家の寒い自室でそれらのニュースを眺めていた。
▼その年の五月、僕は年が変わってからつきあい始めた同じ職場の事務員と結婚する。幸福に向かう流れの方が、不幸に向かう流れより抗い難いこともあるというようなことを書いた気がする。
▼太陽のように明るく前向きな傑物だった。世を拗ねて酒に溺れていた僕とは真逆のピカピカの学生だった。同郷という以外たいした接点もないのに、僕は彼を頼って絡み酒を繰り返した。
▼そんなある日、酔い潰れた僕に彼がこう言い捨てて帰ったことがあった。
「オメェのこと大キライだよ」
僕自身そんな風に言われて当然な人間であることを自覚していたが、彼のようなできた人間の口からそんな台詞がこぼれたことが信じられず、酔いが一気に醒めてしまった感覚を今でも覚えている。
▼それからまた僕たちは何事もなかったように時々酒を飲み、たまには旅行に行ったりもした。彼も二度とそんな険穏なことは言わず、僕もあれはアル中患者の幻聴かもしれないと思うようにしていた。
▼同郷の誼でひょんなことから同じ下宿に入って以来、そんな風にして四年の間親交があったが、彼は就職して以降、留年した僕に一度も連絡をよこさなかったのだから、あの台詞はきっと彼の本心だったのだろう。
▼その彼が亡くなる年の春、地元の繁華街で五年ぶりにばったり遭遇したのは、まさに神様のはからいというほかはない。その晩僕らは痛飲した。そしてその年の暮れ、彼の死を知らせる電話が鳴った。