不揃いの林檎たち

美容整形番組「ビューティコロシアム」を見ていて、ふと「アメリカンビューティ」という映画を思い出した。みんなそれなりに真面目に生きている。けどどっかズレている。そのズレが、映画のように取り返しのつかないところまでいかなければいいと思った。
▼テレビで全国の視聴者に素顔を晒すのは相当な勇気がいることだ。それを押して整形モデルとして出演することを決意したのだから、彼女たちの半生は僕らには想像もつかない過酷なものだったのかもしれない。
▼しかし彼女たちは別にフリークスでもなんでもなく、身体の一部にコンプレックスを持つ、僕らとなんら変わるところのない普通の人間だ。それをブスということで全人格を否定し、整形すれば人生も変わるような考え方は少し違うのではないか。その思想が端的に現れていたのが次の場面である。
▼出っ歯の女性が、MCの和田アキ子に「治ったら何をしますか」と聞かれて「歯を磨く」と答え、「そういうことじゃないでしょう」と顰蹙をかっていたが、そういうことだと思う。彼女の気にしているのは出っ歯であり、歯がよくなれば、それを大事にしたいと思うのはごく自然な感情だ。
▼彼女たちの容姿はけして美しいとは言い難い。だがバケモノのように忌み嫌うほどのものかと言えば、それほどでもないような気がする。それは例えるなら、甘めに見て合コンにやってきた女の子の約半分くらい、厳しく判定しても一人はいそうな顔だ。
▼確かにその娘が隣に座ればテンションは下がるだろう。会話もはずまないし電話番号もきく気になれない。一週間もすれば、もう顔すら思い出せないだろう。けれどそれは、一番人気の娘だってうまくいかなければ同じことだ。
▼冷静に考えれば、彼女たちが特別変わった存在でないことはすぐわかる。四人のうち二人は結婚しており、一人は若く彼氏もいた。今回の目玉のネズミ男(ややこしいな)だって、水商売のエピソードがあるということは、お店は彼女を面接して採用したわけだ。
▼僕は出演していたデッパ、ヒンガラ、シャクレ、デブの四人が団地の公園で井戸端会議をしたり、あるいは息子の部活の試合の送迎の待ち時間におしゃべりしている場面を易々と想像することができる。しかし整形後の四人が一堂に会するところはなかなか想像しにくい。
▼かくしてこれは、モノノケが整形で普通の人間に戻る話ではなく、不揃いの林檎たちがもののけ姫に変身する物語として読むことができる。僕にはエステ美容業界のスペシャリストたちや整形モデルに食いつく芸能人たちの方が、よほどバケモノじみて見えるけどな。