うちの息子

先日、とあるバラエティー番組を見ていたら、相方を泣かせたら景品をもらえるという企画をやっていた。人気お笑いコンビしずるの村上が、相方の池田を泣かせるためにたてた作戦は、母親にお涙頂戴の手紙を読ませるというベタなもの。手紙を読み進めるにつれ、母親が感極まって声をつまらせるのはもちろん、スタジオゲスト全員がもらい泣きしていた。
▼ところが当の池田本人はケロッとしたもので、一向に泣く気配がないまま、ついに母親は手紙を読み終えてしまった。今は亡きナンシー関が、その消しゴム版画コラムでエビスヨシカズを「感情の沸点が高すぎ。というか沸点がない」と評していたが、まさにそれに匹敵するツワモノだ。
▼そういう人は稀にだが確かにいる。うちの家族でいえば長男がそうだ。男は泣いたり笑ったりしないとか、喜怒哀楽がないというのではない。ただ普通の人と食いつく場所が違うので「エエッ!こんなところで?」と戸惑うことが多い。
▼例えば高校受験。前にも書いたが、ついに全く勉強しないまま志望校を落とし続け、冬休みに工業高校の上か下のどっちにするか迷っていたが、結局直前に一気に数ランク下げ、それ以上下がないところに落ちついた。
▼冬休みの頃「別にどこに行ってもいいけど、受験に限らずリスクに挑戦しない人生なんてつまらないだろ?」などと父親らしくアドバイスしたのも、妻が受験の前の晩にトンカツを揚げたり当日豪華な弁当を作ったりしたのも全く甲斐がなかったわけだ。
▼あまつさえ筆記試験に時計を忘れ、面接には上履きを忘れて、会場につくなりしゃあしゃあと自分からスリッパを借りたそうだ。それでいて「面接は完璧だったけど上靴忘れたから落ちるかも。サイアク」などとほざいている。
▼実は長男のことは全く心配していない。小さい頃から手のかからない子だった。うちでは自分の好きなように過ごして自足しているので「何してかにして」と親を困らせることがない。学校でも一切トラブルなし。イジメや非行とは無縁。がき大将も彼のあまりのマイペースぶりに調子が狂ってしまうのだろう。
▼友達はたくさんいるようだが、かといってベタベタの親友というのはウザイようだ。人とのつきあい方、適当な距離感を子供から学んでいる。彼にとっては、受験というイベントより日々の生活の方がリアルなのだろう。
▼合格したらカラオケに行って奥田民生の「息子」を歌おう。鶏頭となるとも牛後となるなかれ。君よ東の星となれ!