キモチE

新年度が始まった。ここのところずっと春は名のみの寒い日が続いていたが、昨日あたりからようやく暖かくなってきた。年度末の仕事も一段落し、気持ちにも余裕が出てきたので、昨夜はひとり映画を見に行った。
▼「アンチクライスト」夫婦の営みの最中に幼い息子が窓から転落して死んでしまう。我が子を失った悲しみと罪悪感で次第に病んでいく妻を、セラピストの夫は森の奥の小屋に連れてゆき、治療しようとするが…
▼タイトルや「エデン」の森、「悲嘆」「苦痛」「絶望」の三人のこじきのモチーフなど、一見してキリスト教的原罪がテーマなのはわかる。狂気の妻の視点より、正常なはずの夫が見る幻視や、ボッシュブリューゲルの絵画を思わせる映像が、映画を非現実的で難解なものにしているが、それは僕が日本人だからそう思うだけであって、あちらの人にとっては極めてわかりやすい具体的なイメージなのかもしれない。
▼などとうちに帰ってからも今見た映画についていろいろ考えていたのだが、甘いものを食べながら妻に粗筋を話すと「どんな映画ね」と吐き捨てるように言われて目が覚めた。こういったことは考えるだけ無駄なことなのだ。
▼セックスは確かに気持ちいい。だがそれが、独身の頃いわゆるエロ本やAV、風俗などから得ていた刹那的な快楽や劣情とは随分違ったものであることを、僕は妻から教わった。それはなんというか、甘くて温かいもので、後ろめたさとは全く無縁のものなのだ。
▼子供が小さい時は手がかかる。成長するにつれて手は離れるが、家族の生活の中で夫婦生活そのものの時間は限られたものになるかもしれない。しかし僕ら夫婦の間でそのことが深刻な問題になることはなかった。春の陽気の中を二人でドライブしながら思う。僕は果報者だ。ああ日本人でよかった。妻が妻で本当によかった。