新説!五月病とは恋の病でR

気持ちがいい。ホントに五月の風ほど気持ちいいものはないな。あんまり気候がいいものだから、横になるとすぐ眠くなる。蛙の合唱がコモリウタだ。

蛙鳴く蒲団の中から月見かな

▼今年の正月帰省した際、親友宅でBS録画された「吉田類の酒場放浪記」を見ながら飲んだのも何かの縁かもしれない。春にパソコンが復活して、その類さんの句会に参加しているcafegentさんのブログ「東京自由人日記」にはまり、千ベロ酒場と俳句生活とわが青春の東京への郷愁が、日増しに募る今日この頃だ。僕もいい年だね。
▼それと意識しはじめたのはつい最近だけど、どうやら僕は生粋の五月病持ちらしい。五月になると僕の中で何かがうごめき出す。だいたいこの青くさい匂いはなんだ?みんななんともないのだろうか。
▼僕にとって、五月は恋の季節だ。長らく忘れていたその感覚を今になって思い出すのは、僕の人生も終幕に差し掛かっているからだろう。いや、僕だけでなく、男も女も四十代の十年間は、たぶん最後の恋を夢見る頃なんじゃないかな。合コンすればそれがよくわかる。みんななかなか帰ろうとしないもの。
▼以前のブログに書いたことをまた書くのは気が引けるが、珠玉の思い出に再び浸ることができるのだから素直に喜ぶべきかもしれない。振り返れば、僕の目の前にミューズが現れたのはいつも今時分のことだった。
▼学生の頃、随分通いつめたお店があった。朝までやってるそのお店で、泥酔した僕は、たまたまカウンターの隣に座った女性によく甘えたものだ。当時の僕は、終電から始発までのその時間帯だけやたらに元気がよかった。まるで狼男、いやオオカミ少年だ。
▼その中に、とても素敵な女性がいた。いつもカウンターの端っこが指定席で、僕が「こっちへおいでよ」と声をかけると、「これがわたしの恋人なの」と言ってピンクの電話に抱きついたりした。断り方にもユーモアのセンスのあるコだったな。
▼そのコと隣同士になった何度目かの夜に、意気投合したと思った僕は、酔った勢いで彼女の手を引いて店の外に連れ出した。二人でタクシーに乗り込んだものの、僕は運ちゃんに自分のうちの住所をまともに伝えることもできないほど酩酊していた。
▼明け方、新宿のどこかの地下鉄の階段に並んで腰かけ、少し話をした。別れ際に彼女は、自分の電話番号を書いた紙を僕のシャツの胸のポケットに入れて改札の向こうに消えていった。彼女のおうちはお店の近くだったのに、そんなわけのわからない僕の行動に一晩中つきあってくれたわけだ。一晩中夜の街を徘徊しても風邪をひかない季節だったことは確かだ。
▼次にお店で会った時、彼女は髪を後ろでまとめていた。なんだか随分印象が変わった気がした。その日もぐでんぐでんだった僕は、せっかくいい感じだったのに、何かの拍子に店を飛び出してしまった。
▼その次にまたお店で会った時、僕は弟といっしょだった。先に帰ると言う彼女を、途中まで送っていった。繁華街を抜けると踏切があり、そこから向こうは住宅街で、急に寂しくなった。僕は踏切を渡らなかった。その時後ずさりしながら去ってゆく彼女の顔を、今でもはっきり覚えている。
▼それから彼女に電話をして「日曜は洗濯や掃除がある」と渋る彼女を無理にデートに誘った。紀伊國屋の美術コーナーで待ち合わせたその日は雨が降っていた。「ヨッ!」突然彼女に声をかけられた。昼間初めて会う彼女を、僕は眩しくてまともに見ることができなかった。
▼「ホックニー好き?まさか印象派とか言わないでしょうね」「映画見る?「芸術家のはらわた」っておもしろそう。まあこういうのは一人で見るか」「あ、ウィントンケリー。大学でジャズ研だったの。ソロのとれないピアノってね」「建築科選んだのは手に職つけなきゃと思って。そろそろ一級受けなきゃなー」「仕事が遅いから夜のさみしい街には住めないわね」
▼彼女は既に社会人で、僕より随分年上の大人の女性だった。紀伊國屋から地下にあるなんとかいうジャズ喫茶に移動する間、いつもより饒舌な彼女のセリフに、僕はほとんど答えることができなかった。知識がなかったわけではない。ただ頭がぼんやりして、彼女の言葉がうまく入ってこなかった。彼女も僕に答えを求めるような話ぶりではなかった。
▼次にお店に彼女を呼び出した時、彼女は髪を驚くほどバッサリ切っていた。「暑かったから」と彼女は言ったが、子供心にも(子供じゃないけど)何かを感じて、とにかくやたらに辛かった。もちろん話は弾まず、彼女はすぐに席を立って帰っていった。
▼あれからもう二十年以上経つ。僕もいい年なんだから、彼女はもっといい年だ。会ってどうこうというわけではないが、死ぬまでにもう一度だけ会いたい気がする。おっと、結婚記念日にこんなブログ書いて、妻に怒られちゃうな。まあ嫉妬なんかする人じゃないことは前に書いた通りだ。三つの袋をガッチリつかまれてるからね。

19日はポテトのペペロンチーノバターしょうゆ風味、カモ風チキンサラダ。20日は冷奴、チキン南蛮。21日はダイコンとスパムのサラダにボールで出てきたたっぷりのカルボナーラを妻と仲良く半分こ。長男は長野に合宿でいないのだ。