動かざるごと山の如し

この匿名ブログでも、僕が中高と部活で柔道をしていた話は公表済だ。現在我が家には柔道着が一組だけある。経験者ならわかる東京水道橋尚武堂製の「講道館」ブランドである。

道具やユニフォームで腕の良し悪しが決まるわけではないが、やっぱりいいものを使うと少し強くなったような気がする。
▼柔道着もピンキリで、僕が中学の頃今から30年前(!)は、メーカーは忘れたが、初心者用の「大和錦」に「九重桜」の赤と銀の三段階だった。まだ新しいうちは色も黄身がかって変な臭いがした。それを何度も洗って真っ白に脱色したものがクロウトっぽくてかっこいいとされるのは、お祭りの法被と同じ。これがグレードの低い方だとぺらぺらの空手着みたいになってしまう。高校に入る頃、岩崎製というメーカーが彗星のごとく現れ、みんな憧れた。
▼値段は一番安い大和錦が何千円か、九重桜が一万前後とすると、岩崎製は当時でも三万円前後したと思う。試合用は部費で作るにしても、汗臭いスポーツなので洗濯用に二着はいる。もちろん僕は全て岩崎製にしてもらった。お父さんお母さんごめんなさい。
▼しかし時代は進歩する。絶対的だと思っていた岩崎製であるが、国際試合ではミズノの試合用が主流になった。僕は「野球メーカーに何がわかる」としばらくその流れに抵抗していたが、ついに三年になってミズノの試合用に袖を通した。さすがにいい作りだった。
▼こう書くとなにか僕が強化選手で、合宿でいっしょに練習した代表選手のことを書いているようだが、実際はテレビに写る代表選手の柔道着に目を凝らし、Mのマークを見つけては、友人と「やっぱりミズノだなあ」「いやオレは岩崎を押す」なんて言ってるだけなんだけどね。ああノーテンキなあの頃に戻りたい。
▼今我が家にある一着は、10年ほど前に母校の指導者が不在になった際、在郷のOB持ち回りで後輩を指導した一年間に使用したものである。いっしょに指導した同期と先輩、熱心な父兄たちと部長先生(シロート)、OB会長と幹事とで、よく飲みに行ったものだ。僕はその後再び地元を離れたが、残りのメンバーは今でも定期会を開いているらしい。ああうらやましい。
▼ところで10年間妻の実家で眠っていたその「講道館」が、この春長い眠りから覚めることとなった。長男が高校の体育(格技)の授業で使うのだ。もちろん一着三万円は下らない特上品である。妻のお母さんがこちらに送る前にクリーニングに出してくれたが、クリーニング屋さんが「これはモノが違いますね」と言ったそうだ。
▼さて、デフレ時代の昨今、柔道着の相場がいくらなのか僕も知らなかったが、制服を買いに行った妻が言うには、指定品として売られていたのは三千円だそうだ。それ、紙でできてない?いくらなんでも三万円の洗いざらしのビンテージものと三千円のユニクロジーンズじゃ差がありすぎだ。先生が着てるのよりいいかもしれない。しかも黒帯である。怒られないだろうか?いじめられないだろうか?と心配するうち日がたってしまった。
▼そして昨日がその初の柔道着デビューの日だったらしい。今朝学校に行く前の妻と長男のやりとりを、妻にきいた通り忠実に再現してみる。「昨日柔道着大丈夫だった?」「何が?」「黒帯しめてて怒られなかった?」「別に」「ほかに黒帯の人いたの?」「いや、先生とオレだけやった。行ってきまーす」
▼長男を見送った後、妻はその光景を想像して腹がよじれるほど笑ったそうだ。僕も笑った。先生もさぞかし不思議だったろう。小さい頃から物に動じない子だった。精神的には既に達人の域だ。これから長男のことを師範と呼ぶことにする。バレー部だけど。
▼今日のウチゴハンはジャガイモと枝豆の明太クリームパスタにベーコン厚切り風サラダ。

妻はパスタ屋でバイトしているので、人気メニューをすぐにパクることができる。フードメニューに著作権てあるのかな?ベーコン厚切り風とは、これだけ厚切のベーコンだと高いので豚バラで代用。お店ができるレベルだな。いやホント。