スーパークールビズでメルトダウン

私事で恐縮だが、いよいよ長年悩まされてきた持病の本格治療を開始することにした。長い闘病生活を考えるとなかなか踏ん切りがつかなかったが、家族の後押しもあってようやくこの日を迎えた。
▼精密検査の結果はほぼ覚悟していた通りの内容で、残る血液検査の結果を待って、副作用の強い薬の内服を始める。肝臓に負担がかかる薬なので、検査結果いかんでは治療方法を根本から見直さなければならない…こんな風に書くと難治性の重病のようだが、ようは水虫のことである。難治性には違いないけど。
▼僕の足の親指は、いわゆる爪水虫で、醜く変形している。指の股や足裏の皮が剥ける程度の水虫なら塗り薬でも治るが、爪水虫となるともう内服しかないと言われたのが結婚当初、今から20年近く前のことだ。こんな僕に添い遂げてくれる妻はホントにエライと思う。イマドキの娘なら離婚騒ぎだ。そんなこともないか。
▼それ以前、20代半ば頃には既に爪は侵されていたのではないか。同僚とサウナに行った際「爪の色がおかしい」と言われたことがある。だが今のように変形して厚く隆起し、誰の目にも奇異に映るまでになったのは、ここ二、三年のことだと思う。その理由は、今となってはもう見苦しくて家族以外の人前に裸足で出ていけないからだ。二、三年前まではそこまでは気にならなかった。
▼浮気してなくても、家族以外の人前で靴下を脱ぐ機会はけっこうある。例えば仲間うちのキャンプなんかで靴下はいてたら、「オマエ暑くない?」と訝しがられるだろう。だが男だけの野宿ならともかくメンバーに女性が混じるとどうか。爪水虫を晒して平気な仲というと相当な仲だ。
▼あるいは男だけの集まりでも、真夏の町内の会合なんかどうだろう。普通はみんな素足に短パンサンダル履きで公会堂に集まるが、水虫を晒せる仲でもない。あるいは協力会社の研修会名目の親睦旅行などで、温泉は各自でも大広間の宴会は必ずある。真冬でも浴衣に靴下じゃ変だ。
▼何が言いたいかというと、震災に端を発した節電気運の中、衣替えの日にあたって環境省が音頭をとる「スーパークールビズ」のニュースを見て、いよいよ公の場で靴下を脱がなきゃならないのかという危惧を抱いたのだ。石田純一か。
▼フランスには「真夏にマントを着るバカ(うろ覚え)」みたいな諺があるが、さしずめ今の日本は「梅雨寒にかりゆし」だ。朔は各地で最高気温の最低気温記録を更新するほど寒かったのに「スーパークールビズ」でかりゆし短パン出勤を暗に強制されるなら、それはそれで制服みたいなもんだろ。
▼二、三年前、それこそ自分の中でまだ爪水虫がそう気にならなかった頃、大事なお客さんの内々の会合に社長と二人で出させてもらったことがある。真夏のフランクな席なので、当然TシャツGパン姿も多く、短パンTシャツでも品のある地味な無地の僕の恰好がそんなに浮いていたわけではなかったが、やはり後で社長に「プライベートじゃない限り長ズボン、靴下は最低ライン」と窘められた。
▼季節が替わる頃の会合で、社長に上着なしを注意されたことは以前にも書いた。クールビズでノーネクタイ、暑くてずっと手に持つことになったとしても「公の会合に上着なしは非常識」なのだ。そういう常識が、日本ではもうとっくにメルトダウンしちゃってるのかもね。
▼ここのところ仕事が暇で晩酌の時間が早く、そのまま眠り込んで変な時間に目が覚めることが多い。

今日のメニューはムッスーの胡瓜を使った我が家で「ズリラー」と呼ばれる一品と、やはりムッスーの新タマを使ったサラスパに肉ジャガ。

「ズリラー」は砂ずりと胡瓜を特製のタレにつけこんだもの。夏になると楽しみなメニューだが、生憎今日は寒かった。普通なら下の子と喧嘩しながら食べるところだが、やっぱり喧嘩になった。嗜好がまるっきり同じなのだ。こういう酒のツマミに良さそうなものは、上の子は見向きもしない。ていうか上の子はそもそも食べ物に執着がない。
▼上の子が中学生の頃、部活内で「噛み付き事件」が発生したことがある。クッキリ歯型がつくほど噛みつかれて犯人が誰かわからないというのもおかしな話だが、一応うちの子にも平等に嫌疑がかけられた。その時の妻の問いかけに対する長男の「はあ?オレがそんな汚いことするわけないやん」という返事に妙に納得したものだ。
▼普通人間の口に入るものでもそんなに口に入れようとしないのに、ましてや普通は口に入れないようなものを、この子が口に入れるわけがない。口ギレイというかなんというか。いったい誰に似たんだろ。やっぱ妻なんだろうな。下の子はオレ似。満腹中枢がメルトダウンしてる。