夜の蝶アレコレ

わが家の朝はミックスジュースから始まる。

妻がその日の気分で選んだ果物とヨーグルト、氷をミキサーにかける。すると氷のシャリシャリ感が残るペースト状の極上のスムージーができあがる。これをいつまでも氷が溶けないサーモスのコップに入れて、僕、上の子、下の子のバカ三人がめざにゅ〜を見ながら黙ってスプーンを無意識に口に運ぶのが、我が家の朝の風景である。
▼火曜は肝機能の再検が済んで一週間ぶりの晩酌。アテはスパサラにジャガ芋の牛肉巻き。

これで結果が悪ければ投薬中止で水虫とは一生のおつきあいとなるとこだったが、数値は戻っていた。やっぱり一時的なバカ飲みが原因だ。検査前に暴飲暴食するもんじゃないね。常識か。
▼水曜は接待で会社でよく利用する高級割烹居酒屋へ。しかし接待の相手の前で写メるわけにもいかず残念ながら写真はなし。いつものおまかせで、刺盛はつぶ貝にかつお、サーモン、ほうぼうと自慢の北海道産と地物の旬のもの取り合わせ。ホルモン、イカのワタ焼きに天ぷらと続いた後の焼き物のニシンが立派。お腹にタマゴがたっぷりつまってうまかった。
▼初盆を回って遅れてきた社長が到着するなり、二次会はお客様が予約してあるというお店に移動。社長に教わった接待の法則は「一軒目はこっちがうまいものを食わせる。うまいもの食って文句言う人はいないから。二軒目はお客様の行きたい店に行って支払いだけしてやる。みんな行きたい店がある。ヘタにこっちが連れてってもよっぽどいい店じゃないと喜ばれない」
▼僕はこの感覚がわからなかった。なぜなら馴染みの店で人に払ってもらうのってカッコワルイと思ったからだ。自分の店に人を連れていけば自分が出すのが普通の感覚だ。それに自分が行ったことのない新しい店に連れてってもらった方がおもしろそう。ところがそうではなかった。社長の言う方が正しかった。世間には僕とは違う目的で盛り場に繰り出す人の方がずっと多いようだ。
▼つまりは全部が全部ではないが、好きな人は僕が考えているよりずっと好きなのだ。彼らは僕みたいになんとなくの新しい刺激や気分転換なんて子供じみたものを求めてるわけではない。お気に入りの店があり、お気に入りの女の子がいる。目的は極めて明瞭具体的。足しげく通い、機会があれば週に何度でも行きたい。人の金も自分の金もない。お金に色はついていない。見栄をはるより誰の金でも落とした方が、店も女の子も喜ぶと知っている。
▼今の会社で営業のまね事をするようになって夜のつきあいが多くなってから、僕は夜の蝶に対するイメージが180度変わった。それまで憧れの対象だったものが、仕事でなけりゃ見るのも嫌になってしまった。蝶というより蛾、それも毒蛾だね。そんなモスラを追っかけ回してるんだから蓼喰う虫も好き好きというか…
▼お客様と別れて珍しく社長が「飲み直すか」と誘ってくれた。以前にも書いたが、地方都市には珍しくシックなクラブだ。「ここなら上客を連れてきても恥ずかしくないからな」社長と感覚がいっしょでよかった。社長についた女の子はよく海外旅行に行くらしい。僕の隣の女の子は昼は仕事をしているそうだ。品のいい店ほど早く閉まるし素人っぽい娘が多い。年の頃はアラサーと落ち着いている。ハタチそこそこでバツイチ子持ちみたいなモスラとは大違いだ。
▼シロウトでもクロウトでも構わないが、モスラ嬢はともかく、現代において日本男子がこういうシックな大人の女性を喜ばせる方法ってもうないんじゃないかな。滝川クリステル似の彼女が暇さえあれば行くというタイのリゾートで受けるエステやショッピングなどのサービスの数々は、日本ではとうてい味わえないものだし、頭のいい娘ならサービスしてくれる男が現れる前に自分でサッサと行ってしまうだろう。そしてそれはきっと為替レートの差とかいう問題じゃない。