ヒーリングおじさん

甲子園が終わり、24時間テレビが流れると、そろそろ夏休みも終盤だ。一昨日あたりからグズついた天気で、嘘のように涼しくなった。しかしまだツクツクホーシは鳴いていない。油断は禁物だ。
▼親友がBS録画した「吉田類の酒場放浪記」のDVDを送ってくれた。

昨日は一目散に直帰してひとっ風呂浴びると、財宝のトマトジュース割片手にパソコンの前にスタンバイ。至福の時間が始まる。長男の高校入学祝いにおじいちゃんが買ってくれた、実際には僕がブログに、下の子がゲームに使用しているパソコンは、ブルーレイも視聴できる最新のスグレモノなのだ。
芋焼酎「財宝」はいろいろ試した結果、お茶かトマトジュースで割るのがいい。甘いものは何で割っても芋の強烈なニオイに負けてしまう。トマトジュースなら味付きなのでツマミもあまりいらない。とは言っても口寂しいので煎餅の袋を見つけて持ってきた。「雪の宿」という、サラダセンベイを白い砂糖ダレでコーティングした商品。トマトジュースが塩辛いので、甘みがほどよく感じられる。僕は最近までこの手の甘じょっぱい組み合わせは苦手だった。子どもの頃からスイカは大好きだったが、大人が塩をかけて食べるのが不思議だった。お餅を砂糖じょうゆで食べるのも嫌い。もちろん生ハムとメロンの組み合わせも。なんだか人生の半分を損した気分だ。
▼さて、「吉田類の酒場放浪記」である。以前にも書いたが、今年の正月に親友宅で飲みながら鑑賞したものだ。フォローしているブログ「東京自由人日記」にもよく登場する。なにせ類さんの主宰する句会「舟」に自由人さんも参加しているのだからね。僕の身体の奥深くに眠っていた安酒場と俳句への欲望を目覚めさせるきっかけとなった番組なのだ。構成は、類さんがその日訪れる土地の見どころをひとつ紹介した後、お目当ての酒場で飲むという単純なものだ。時間にして10分ほどの、送ってくれた友人に言わせれば「なんてことない」グルメ番組の一形態である。
▼ディレクターをやっている別の友人が言うには、似たような番組でも審級が違うとクオリティーも違ってくる。例えばNスぺやクロ現などの番組は全く別々にできるのではない。デイリーのおはよう日本やニュース9などの5分や10分の特集の中で評判がよかったものを、尺を長くしてクロ現にする。さらに評判がよければNスぺになるといった具合に、ひとつのネタが言うなれば「昇格」していく。その度にそのネタに携るスタッフ、試聴するデスクやプロデューサーの数が増えてゆき、番組として人前に出せるようになるまでのハードルが上がる。BSは、その審級が著しく低いというのだ。多くの人の目に触れる可能性がある枠にはそれなりのものを流さなければならないし、誰も見ていないような枠では何を流してもあまり影響はないということだ。
▼大勢の人が関わることで、同じ内容に質的な変化をもたらす、変質させるというのはありうる。審級の低い番組は、たいていはひとりよがりでクオリティーも低いものになりがちだ。クオリティーというのは、ある程度完成度というものと不可分の関係にある。テレビ番組に限らず、多くの人の手によらないものは、よく練れていない=完成度が低い=クオリティーも低い=いわゆる「青い」「若い」作品になる。しかし多くの審級を経ることで、洗い流されてしまうアク、消えてしまうニオイのようなものもあるだろう。「吉田類の酒場放浪記」もそういったBSらしい審級の低い番組に違いないが、青臭さはない。そしてよく練られた番組にありがちなしつらえた感じもない。ようするにダーダーなのだ。
▼番組の中で類さんは期待を裏切り続ける。どしゃぶりの釣堀で釣りをやらされたり扱いもひどいのだが、その中で逆に次々と魚が釣れてしまうのが予想外。なにより「とっておきの店」を紹介する番組に、あまりたいした店が出てこない。うまそうな店は高かったり、パーフェクトだと思うと地方だったり、一長一短だ。そしてエンデイングは、夜の街に消えてゆく類さんの後ろ姿をバックに類さんの詠んだ句がテロップで流れるのだが、これがまたたいしたことない句なのだ。全くひっかかりがなかったり、かと思えば盛り過ぎだったり、失礼だが勘所がまるでわかってない(と思える。)自由人さんのブログでも句会の模様がよく出てくるが、類さんの句は一度も紹介されたことがない。ホントに句会を主宰している人なのだろうか?
▼だがこれこそが類さんの持ち味なのだ。期待を裏切り続けてもあれこれ言われない。ストレス社会にこれ以上の安心はないだろう。

そんな類さんを見ながら気持ちよくトマト割を飲んでいると、妻がアテを作ってくれた。ぶっかけ蕎麦のササミのせに冷奴。ササミの皮は別の小皿にわけて皮酢にしてくれたが、ちょっと油断している隙にミニミーにさらわれてしまった。

そしてメインのキッシュは第三のビールに切り替えて流し込む。気がついたら眠り込んでいた。僕はそんなに酒が強い方じゃないね。あれこれ言わない妻に感謝感謝。

道端に転がる蝉ににわか雨

酔い覚めて夜の長さを思い知る