わが名はゴディバ

大寒らしい厳しい冷え込みが続く。こう寒いとカゼをひいてる人が増えてくる。自分がかからないと全く気づかないものだが、インフルエンザも流行っているらしい。小学校六年生の下の子は、昨日までの三日間学級閉鎖でお休みだった。
▼学級閉鎖の前日の夜、「宿題めちゃくちゃ出てる」と言いつつうれしそうにしているので「そりゃそうさ、毎日学校で勉強するのと同じだけ出るはずだよ。昼間学校にいる時間やらないと終わらないよ」と言っておいたのに、案の定最終日の夜になってやり始めたようだ。
▼漢字の書き取りと算数のドリルがざっと20ページずつくらいある。内心「こりゃ全部は無理だな」と思いつつ、夕食後わからないところを教えてやった。めんどくさいのと、わが子ながらなんでこんな問題もできないのかという思いから、思わず声が荒くなる。「だからこれがこうなって…」
▼初めのうち問題を見つめて真剣に聞いていたはずの下の子が、いつの間にか顔あげて不思議そうに僕の顔をじっと見ている。「そんな大きい声出してもわからんよ」下の子の一言にはっとした。子どもは時々はっとすることを言う。すっかり毒気を抜かれてしまった。ほんとだ。お父さんが悪かったね。「もう適当なところでやめなよ」と言って先に寝た。
▼結局彼は徹夜して宿題を全部すませたようだ。仕事からもどると、下の子がごはんを食べている。いつも元気すぎるくらいなのに今日は一言も発しない。ぼーっとドラえもんを見ている。そのうち「今日はあっというまに時間が過ぎた」と言って寝てしまった。学校でも寝不足で一日ぼーっとしていたのだろう。子どもらしい子どもだ。なんでこんなに素直な子に育ったか不思議なくらいだ。
▼さて、今日は僕のハンドルネームの由来を話そう。これは下の子がまだ小さい時、こしょぐり(下の子はくすぐりのことをこういう)をするときに単に音がおもしろいので「ゴディバ」と言ってはくすぐっていたことからきている。ところが先日尊敬する井上章一先生の書評で「貴婦人ゴディヴァ」のことを知った。いかにも章一先生が好きそうなテーマだ。
▼中世ヨーロッパのどこかの領主の奥方だったゴディヴァは、ある日圧政を敷く夫を諫めるために裸で馬に乗り領内を一周する。領民にはその日一日外出を禁じ、けして窓を開けてはならぬというおふれを出していたが、中に一人言いつけを守らぬ男がた。それが「ピーピーングトム=出歯亀」の由来だね。本の表紙を飾るラファエル前派の画家ジョンコリアの絵は確かに美しい。眼もつぶれるってわけだ。

有名なチョコレートの高級ブランドGODIVAの包装紙にもこの馬に乗った裸婦の図案がちゃんとプリントされている。
▼先日、そのGODIVAのチョコレートをアテに、壜の底に残ったグレンリベットと最後の別れを惜しんだ。まさに至福のひとときだった。

その昔憧れのマドンナに、待ち合わせた新宿紀伊国屋本店の美術コーナーで「絵は何が好き?まさか印象派なんて言わないでしょうね」と小馬鹿にされたけど、ラファエル前派や象徴主義よりは印象派の方がずっとマシだな。どうも世紀末美術ってやつは性に合わない。まあ僕には貴婦人ゴディヴァの伝説よりチョコレート、チョコレートより下の子とじゃれ合う方がお似合いだ。
▼そして貴婦人ゴディヴァに匹敵する美貌を誇る妻の手料理は昨日がキノコとトマトのキッシュにポークソテー

今日はブリの大根おろしワサビ風味にお好み焼き。

その美しさは夫以外の人が見たら目がつぶれるので僕だけが知っている。