わがイタ・セクスアリス

12月、1月と全く雨が降らなかったのに、2月に入ったとたん週初めにまとまった雨が降り、半ば以降冷え込むというように天気に周期が生じてきた。晴れた日は風が強く寒いが、雨の前は風がやんで比較的気温が高くなる。それでも実際に雨に降られて衣服が濡れると、身体が芯まで冷えるほどの冷たさだ。さて、前回の投稿の最後にチェリーボーイという単語が出てきたので、今回は僕の初体験について話そう。
▼大学一年の冬、地元の高校のクラスメイトの女の子に再会した話は書いた。吐く息も白い上野ZOOでデートした後、僕は彼女にたびたび電話をかけるようになる。まだケータイもない時代、三畳一間の僕の下宿の部屋には固定電話もなかった。銭湯の行き帰りに十円玉を握りしめ、僕はピンクやグリーンの公衆電話の向こうの見えない彼女と向かい合った。
▼何度もかけることはなかったと思う。僕の気持ちを知ってか知らずか、なかなか期待通りの方向に進まない彼女の話ぶりに焦れて、僕は苛立ちを隠しきれず逆に彼女を怒らせてしまった。けどせっかちになるのも無理はないよね。だって寒いんだもん。
▼彼女と疎遠になってしまった春先のある晩、僕は親友と親友のお兄さんと高田馬場でおおいに飲んだ。硬派な僕たちにしてはめずらしく迷い込んだ場末のスナックのような店で、僕は日本に留学している韓国の軍隊の将軍の娘とかいうホステスと仲良くなった。彼女は新宿のクラブでバイトしながら、日本の専門学校でホテルの勉強をしていると話していたが、今にして思えば仕事帰りに自分のマンションの近くのスナックで憂さを晴らしているような、首までドップリお水の世界につかっている女だった。
▼童貞の世間知らずというのは恐ろしいもので、彼女が勤める新宿のそのクラブに、僕は未成年の学生の分際で、彼女に請われるままにそれがいわゆる同伴というものだということも知らずに同伴し、その帰りに彼女と出会ったスナックに寄って店のママに二人して説教されるなど、今思えば舌を噛んで死にたくなるほどバカバカしいことをしていた。
▼そんな風にして身につけるものがだいぶ薄くなった頃、僕は彼女のマンションの部屋に遊びに行くようになっていた。そして彼女の部屋で彼女に紹介されたパンチパーマの中年の紳士と彼女の三人でステーキを食べ、男の紹介で池袋の雀荘で客にコーヒーや水割やおしぼりを出したり、雑居ビルの居抜きの店舗の大理石のカウンターを磨いたりビロードの丸椅子にブラシをかけるようなバイトをした。
▼普通ならステーキハウスで迷いもなく男の隣に座る女の態度で察しがつくというものだ。いや、女の男を見る目、男の言葉に示す恥じらいの仕草のいちいちに、二人の関係性の全てが隠しようもなく顕れていたはずだ。彼女が住んでいるマンションの部屋も、彼女が勤める新宿のクラブも、全て彼が彼女にあてがったものだったのだ。
▼彼女がTシャツを着ていたから、もう夏になっていたのかもしれない。その日遅い時間に彼女の部屋に遊びに行った僕は、泊っていくことになった。どういう展開でそうなったのかもう忘れてしまったが、不意に彼女が「興奮してしまったよ」と言った。導かれるまま彼女のTシャツをたくしあげ、僕は夢中になって彼女の胸を吸った。大柄な体に似合わず、意外なほど貧しい乳房だった。
▼行為の後彼女は、「好きな人が初めてでよかったじゃない」と言ってすぐに寝息をたてはじめた。「違う」僕は心の中で彼女のセリフを否定していた。今となってはもう、それが「好きな人」という部分なのか「初めて」という部分なのか忘れてしまったが、とにかく彼女のセリフがしっくりこなかったことだけは覚えている。
▼それから幾日もたたないうちに彼女の部屋に遊びに行ったら、部屋にあの男がいてなんだかもめているようだった。僕はあけた玄関のドアをそのまま閉めて二度と彼女に会うことはなかった。と書くとかっこいいが、実際は彼女のマンションを見上げながら電話をかけて、男との関係を問いただしたのかもしれない。今思い出したが、「あなたは子どもだから」というセリフを何度も言われたような気がする。
▼土曜からたまっているウチゴハン劇場。土曜はブルーチーズのソースを使ったクリームパスタにキムチ牛丼。


日曜はサバ塩とブリ照の魚二種にビーンズスープ。

月曜は鮭のムニエルにマーボ豆腐。

そしてバレンタインデーの今日はタラのトマトソースにスパイシーチキン。

魚料理と豆料理が多いのは部活で夜遅くなる長男の体調を気遣ってのこと。
▼彼女と出会ってひとつだけよかったことは、彼女の部屋で生まれて初めて本場のケジャンを食べる機会があったことだ。あれはうまかった。今思い出したが、新大久保かどっかのお店で本場のサムゲタンも生まれて初めて食べた。それ以外にいいことはひとつもなかった。初体験でさえ、いいものではないこともある。なんでも経験さえすればいいというものではない。

妻にまたネイルに行かれてしまった。将軍様の娘ではないが、女としては妻の方が格段に上だ。