八月は余生

猛暑続きの毎日だが、一昨日あたりから多少和らいだ気もする。きっとオリンピックが始まって、ロンドンの方に熱気が分散したんだろう。週末は仕事にオリンピックに忙しくブログの更新もままならなかった。柔道決勝の放送は0時過ぎから。2時3時なら絶対寝るが、微妙な時間でつい夜更かししてしまう。
▼さて、スポーツの祭典オリンピックである。試みに思いつくまま遡ってみる。ロンドン、北京、シドニーアトランタバルセロナ、ソウル、ロサンゼルス、モスクワ、その前がもうわからない。その前の前の前は東京で、僕がまだ生まれる前のことだ。そう考えると四年に一度って結構希少な気がする。そう何度もあるわけではない。
▼中学生の時のモスクワ五輪は、確か政治的な理由で西側諸国がボイコットした大会だったと思う。次のロス五輪では、逆に東側が参加しなかったはずだが、その影響は感じられなかった。高3だった僕は受験勉強そっちのけでテレビばかり見ていた。カールルイスやジョイナーなどのスター選手が大活躍した。ソウル五輪のことは病気(精神の)のため全く覚えていない。アトランタバルセロナのことは順番が定かでない程度の記憶しかない。女子マラソン有森裕子が二大会連続でメダルをとったのが意外だった。
▼こうしてみると、オリンピックが超楽しみ!みたいな感じでテレビ観戦したのはここ三大会くらいということになる。五輪がショービズ化したと言われるのはロサンゼルス大会からだが、確かに僕の記憶とも一致する。しかし子供の頃のオリンピックの印象が薄いのは、また別の理由があると思う。それはショービズ化する前のオリンピックが政治的なプロパガンダの場だったからというようなことでもない。
▼そもそもオリンピックを楽しみにしているのは大人だけで、子供はたいして興味がないのではないか。幼少期から思春期にかけての夏休みは、恋に遊びに楽しいことがいくらでもあって、普通はオリンピックどころじゃないだろう。それが大人になるにつれて仕事以外にすることがなくなり、プライベートはテレビで高校野球かオリンピック観戦というようになってしまう。前にも書いたが、子供にとって高校野球は退屈の代名詞だと思う。大人がテレビの前から動かないのが不思議だった。
▼オリンピックが始まった土曜の夜は近隣各町とも夏まつり。子供たちは二人とも部活から帰るなり鉄砲玉のように飛び出して行った。ランチはよく出かけるがディナ―の機会はめったにない。せっかっくなので妻と外食することにした。近所の盛りのいい蕎麦屋が市内各所に支店があることがわかり、本店に行ってみる。

僕は冷やし中華に生ビール。妻は天丼を食すが期待はずれ。支店とは全くの別物だった。
▼子供たちにとってだけでなく、僕にとっても七月最後の土曜日は、オリンピックの大会初日というより、毎年隅田川花火大会が開催される日として記憶に残っている。22年前のこの日、僕は彼女と隅田川の花火大会を観にいった。風薫る初夏のある日から数えて三ヶ月の間、僕たちは週に一度の逢瀬を重ねた。そしてその前の週に、つきあって初めて僕らはデートをしなかった。一週あけると二週会わないことになる。その二週の間に、彼女から一度、僕から一度電話で話はした。
▼もともと頻繁に連絡をとる方ではない。今だって友人から連絡がないとおしかりを受けるほどの無精者である。まだケータイもない頃のことだ。長く下宿の大家さんの呼び出しだった僕などは、固定電話も引いたばかりだったかもしれない。実家に電話をかけるのに電話代を気にするような時代だった。だから互いに一度ずつかけあった電話も、それほど少ないものではなかったかもしれない。それでも二週間もあれば、オリンピックだって終わってしまうだろう。僕が24歳、彼女が22歳の夏のことである。
▼大人になった今では、二週間なんてあっという間で、どうとういうこともなく過ぎていくけれど、二週間が取り返しのつかない貴重な時間である時期がある。特に若いうちの七月はそうだ。約束の場所で待っていた彼女は、緑色のサマーニットに丈の長い真っ黒なスカートをはいていた。彼女の目には光が全く反射しなかった。艶消しの黒ってこんな色じゃないかと思ったものだ。
▼子供の頃、七月のうちの夏休みが一番好きだった。休みはまだ一ヶ月も残っている。盆を過ぎればクラゲも出る。終盤には大量の宿題も待っている。今のうちに海に山に遊んでおかなきゃ…。八月に入って、登校日に平和教育を受け、甲子園が始まると、もう僕の心には秋風が吹いていた。お盆もとうに過ぎ、観光客もいなくなったクラゲだらけの海にいつまでも浸かってはいたが、心では泣いていたのだ。
▼とはいえ僕ももういい年だ。次回はテレビ桟敷の五輪観戦記といくかな。



木曜はスーテバ(酢手羽元)、金曜はトリの生姜焼きにそれぞれ種類の違うアボガドサラダ付。土曜は外食、日曜はお惣菜でお休み。月曜はぶっかけうどんにミートグラタン。