俺たちは子供だ!

まだまだ陽射しは強いが、空気だけは秋のものに変わりつつある。この状態があとひと月続く。残暑だね。この時期の特徴を一言でいえば、夏の狂騒が落ち着いて、日常に戻る過程かな。とはいえ全てが元通りに戻るわけではない。ひと夏の間に決定的な変化が生じており、それは不可遡的な何かなのだ。
新学期机に向かうすまし顔
▼日曜は社長以外の周囲の人が心配して休め休め言うので、指示だけして帰るつもりが昼になり、帰宅後も一時間毎に電話で現場と連絡を取り合い、まるで休んだ気にならない休みだった。実際先週は重大な懸案が持ち上がり、一日おきに午前様だったが、社長は「あと三日くらい徹夜しろ」と言っていた。
▼真夏にひと月以上休んでないような時に限って緊急の懸案が持ち上がるものだ。もし僕がここで頑張ってあと三日徹夜して懸案をやりきるような人間なら、今頃とっくに重役だろう。結局業を煮やした社長が「オレがやるからいい!」と言うので素直にお願いした。チャンスは一度きりかもしれないが、身体を壊しちゃ元も子もない。
▼ところが芥川賞目当てで購入した文藝春秋九月号の太平洋戦争特集「語られざる証言」に中国軍五万に包囲され玉砕した羅孟守備隊生還者の「百日ぶりの熟睡」という表現を目にし、自分の甘さを痛感した。社長の口癖は「一日は24時間ある」三日徹夜すれば都合九日分の仕事ができる計算だ。たいていのことはやりきれるだろう。常在戦場。企業戦士は眠らないのだ。
▼徹夜して出世するより早くうちに帰って妻とスイーツを楽しみたいタイプの僕なんか、世が世なら今頃とっくに死んでるな。平和ボケでもなんでもいい。今の日本に生まれてよかった。そんな暮れゆく日曜の夕べ、妻と二人で百円マックを買い込み束の間のドライブを楽しんだ。
▼午前中下の子の部活の世話役だった妻は、野球部の父兄と初めて話らしい話をしたという。話題が家族構成に及び、高校生の長男のことを「うちのはそんないいとこじゃないから」を連発していたら、話している相手の上の子も同じ学校だったらしい。「あら、ワタシったら失礼」話ながら心の中で舌を出して笑いがとまらなかったそうである。
▼一方その頃、前日の帰りに仲のいい下請の社長の短パンTシャツ姿を偶然見かけていた僕は始業前に話しかけた。「昨日は遅かったの?」「結局3時まで」という話から「近場?まさかあんな恰好で街まで行かないでしょ」と、ついウッカリ口を滑らせてしまった。僕と同世代のその社長、ファッションにはかなりのこだわりがあるのだった。言い終わってから気がついて心の中で舌を出して笑ったよ。
▼同じ頃に別々の場所で同じように思い切り失言してる僕らはホントに似た者夫婦だ。マックの百円ソフトを舐めながらそれぞれのエピソードを披露して僕らは笑いあった。全く世間知らずというか脇が甘いというか、要するにいつまでも子供なんだな。

そんな日曜のウチゴハンは豚肉とキャベツのパスタにアボガドディップ。料理がうまくて家事をやれば女は子供でもいいが、男の僕は夜中に目が覚めてこんなことしてるくらいなら仕事しろ!って社長に怒られちゃうな。