どきどきキャンプ

風は涼しいのに日中は秋というのが憚られるほど暑い日が続いている。そんな中いつのまにか秋場所が始まった。そしていつのまにか序盤に満員御礼が出るほど客足が戻っている。右も左も外人力士ばかりの中で、稀勢の里琴奨菊ら日本人力士の頑張りを否定するものではないが、人気回復の一番の理由は日本には年寄しかいないということであり、基本ヒマな年寄は結局のところ大相撲に回帰するしかないのである。
▼先週は木金と連休をとって、かねてより計画していたひとりキャンプを実行に移した。午前中に免許の更新をすませ、必要なものを百均でとりそろえると、うちから車で30分の、会社に行くのとそう変わらない場所にあるオートキャンプ場を目指す。ここで二連泊して土曜は職場に直行した。キャンプは無理しても連泊か、無理ならデイキャンプが鉄則だ。でないとテントを張ってテントをたたみに行くことになる。
▼9月になったばかりというのに平日のキャンプ場はほぼ貸切状態だ。買い出しはテントを設営してから。初日はシーフードメイン。カツオとタコのカルパッチョに待望の秋刀魚の塩焼き。つけあわせは手をかけずに地物のトマトとキュウリにそのままかぶりつく。アルコールはビールと白ワイン。写真でお見せできないのが残念なほどの見事な手際である。
▼唯一の失敗はモスキート対策を忘れたこと。陽のあるうちは全くいないのに、暗くなるととたんに出てくる。油断した。それと残飯をねらう野良猫にも悩まされた。なにしろ他に客がいないからどうしても僕のシマに寄ってくる。あとユズリハの樹の下にテントを張ったのだが、葉が落ちてテントにあたる音が意外に大きい。初日はほとんど眠れなかった。
▼二日目はモーニングコーヒーをゆっくり楽しんだ後、併設の温泉施設で汗を流す。10時開館と同時に行ったはずが既にお年寄でいっぱいだった。目の前のキャンプ場から来たのになぜ???風呂から上がると一番近いスーパーに食材の買い出しに出かけた。前日が魚だったので、ビフテキとトンソクをメインに、ナスやニガウリなどご当地野菜を買い込む。
▼昼はモロキュウとヤッコでビールをやりながらトンソクとナスの田楽を焼いた。缶ビール3本が瞬く間に胃袋に消えてゆく。3時ごろ仕事帰りの妻に蚊取り線香を届けてもらった。あとは日が暮れるまでひたすら木陰で椅子に座って後からきた客がテントを張る様子を眺めていた。きれいな芝とユズリハの木陰のあるいいキャンプ場だが、唯一の瑕疵は目の前に産廃施設があって終日重機の音が聞こえてくることだ。
▼完全に陽が落ちてから夕食の準備にとりかかった。ビフテキとサーモンのマリネで残りのビールとワインをあける。もう十分だ。ひとりには十分すぎる。時間をかけて蚊取り線香の結界をつくる。久しぶりに贅沢な時間の使い方をした。横になってウトウトすると、夜中にバイクの爆音が響いて目が覚めた。アクセルをふかしながら敷地の周囲をわざとゆっくり何周もするのだから故意にはちがいないのだろう。結局二日目もほとんど眠れなかった。
▼公営の管理されたキャンプ場ですら、蚊と野良猫と重機とバイクの攻撃にさらされるのだから、野宿なんてとんでもない話だ。僕も立派な現代日本の文明の子、優しいサヨク横道世之介だ。それでも9月の気持ちのいい風にひがな身を任せることができたのはよかった。なぜなら美人で性格がよく料理の腕が抜群の完璧な妻の唯一の欠点は、暑がりで夏中クーラーをつけっぱなしにすることだから。けどすさまじきものが蚊と野良猫と重機とバイクにクーラーくらいですむのなら、幸せな方と言うべきだろう。

日曜のウチゴハンはキャンプの残りのナスのパスタにキャンプの残りのソーセージサラダ。