再認識

台風16号の影響か、夜半かなり激しい雨が降っているようだ。降る降るといいつつ日中はなんとかもった。そのかわり蒸し暑い。ゆうに30度を超え、仲秋とは思えぬ暑さだ。雨の降り方もスコールのようで秋雨の印象とはほど遠い。まるで亜熱帯の気候である。
▼先週仕事を終えて帰宅すると、ほどなく学校から電話があり、昼休みに長男が同級生に暴行を加え、イジメが疑われるので迎えにきてほしいという。時計を見るともう21時近い。妻が電話口で話している横で、下の子が心配そうに「〇〇ちゃん(長男の名前)がそんなことするはずない。部活を一生懸命やろうとする人がそんなことするかな?」と首を傾げた。
▼僕たち夫婦の感想も全く同じものだった。まず第一に性格的にそんなことをするような子じゃないこと。第二に今現在部活に熱中し、最近その部活を通して「体育の先生になる」という目標ができたこと。一般的に現在何か打ち込むものがあって、将来の目標がある子どもの心がイジメに向くとは考えにくい。だが高校生には何があっても不思議じゃない。いい子に見える長男にも僕らが知らない顔があるのかもしれないと、心配しながら学校に向かった。
▼応接室に通され、本人といっしょに担任の先生の説明をきくがどうもはっきりしない。事象としては、昼休みに廊下を通りかかった被害生徒を長男が呼び止めたところ、それを振り払った被害生徒の手が偶然長男の顔に当たり、「何すんだよ」という感じで長男がわざとはずしたつもりのパンチがよけた相手の顔にマトモに当たった。そこで昼休みが終わり、たまたまやってきた先生が被害生徒の悔しがりようと興奮の仕方が尋常でないので、引き取って事情を聴いたところ、以前からあだ名で呼ばれることが不快だったと訴えたため、長男も含め名前があがった複数の生徒に事情を聴いたところ、事実関係を認めたため父兄をお呼びしたとのこと。
▼応接室には、現場に居合わせその後の対応にあたった学年主任の先生が途中から加わった。その間担任の先生も主任の先生もイジメという言葉は一度も口にしなかった。先生方の説明を聞き終わり、長男に先生の言うことにまちがいがないか確認して、追って沙汰があるという主任の先生に「お任せします」と言って辞去した。たいした問題だとは思えなかった。先生に促されて長男があだ名の具体例を言ったときは笑いを堪えるのに苦労した。その程度のことだ。正直僕は長男がイジメなんかしてないことに安心して学校を後にしたのだ。
▼ところが事態は急変する。帰途車の中で長男が突然泣きだしたのだ。長男が言うには、「やった方にそのつもりはなくても受け取る方がイジメと感じたらそれはイジメなんだ」「わざとじゃなくてもボクサーがやったら痛いだろう。相撲取りがやったらケガするだろう」などと言われ、「他の二人は認めたぞ。後はお前だけだ」とどめに「イジメを認めないと処分のくだしようがないから退学にするしかない」と言われ、部活と学校を続けたい一心で渋々認めたという。いくら違うと言っても聞いてもらえず、4時間粘ってこの時間になったけど、やっぱり本意でないことを自分で認めてしまったことが悔しいと言って泣いた。
▼妻はもう怒り心頭である。「なんのためにあんたをつれてきたんね!借りてきた猫みたいにおとなしくしてから!親が子どもを守らんで誰が守るんね!引き返して文句言わなかったら離婚する!」妻の言う通りだ。物分りのいい親を演じてなんの意味がある。引き返し、以下のことを伝えて帰った。
①現在の生活と将来の目標が連動し、充実した毎日を送る子にイジメの動機があるとは思えないこと。②被害生徒の訴えと長男の否認は対等であり、そこから先は先生の判断であること。③イジメがあったかなかったかは別にして、先生のとった行動(生徒を個別に長時間拘束し、退学をちらつかせてイジメを認めるよう迫ったこと)は脅迫にあたり、まちがっていること。④世間でイジメの隠蔽が問題になっている今、対策に一生懸命なのはわかるが、事が起こる前に過剰に反応することは、事が起こった後隠蔽しようとする心性に近く、学校の問題に対処しようとする行為ではあっても、真に子どもの問題を考える態度とは思えないこと。
▼どこまで理解したのか、主任の先生は翌日長男に「完全にイジメの図式だから謹慎は免れない」と言ったらしい。本来なら完全に冤罪の図式で先生の方が謹慎は免れないところだが、結果はこの通りである。僕らがなんの抵抗もしなければ、退学はなくても停学など彼の将来の目標の障害になるような重い処分になっていたかもしれない。
▼またまた親バカで申し訳ないが、今回のことで良かったのは、長男が自分の心を曲げてイジメを認めてしまったことを一番悔しがっていたことだ。長いものには巻かれろ、波風立てないのが一番という僕にはない気高い心である。車の後ろで悔しがって泣いていた彼が、僕らが戻るとピョコンと首を起こし、「先生なんて言ってた?」ときくあどけない仕草に、思わず幼児の頃の面影がフラッシュバックした。三つ子の魂百まで。この子はなにひとつ変わっちゃいない。
▼謹慎中ではあるが、土曜は気分転換に家族でうちの近くのインド料理屋で外食。下の子はひどい食わず嫌いで困る。

日曜は豚肉とピーマンのパスタにモロヘイヤとなめことオクラのサラダ。テーマは和風。

敬老の日も夕方まで家族で長男の謹慎につきあった後、妻の気分転換にこの町随一の甘味処にエスコート。あんみつ入りかき氷の宇治金時に秋のあんみつ。

妻の喜んだことと言ったら。やっぱり女性だね。お返しに晩酌のアテにようやくキャンプの残りのホルモンを出してくれた。

臭いも味も酸っぱかったがお腹は壊れなかった。これも愛のマジックだろう。お口直しは妻渾身のキッシュ。