アキレスの泉

朝晩かなり冷え込んできたせいか、先週下の子が風邪を引いて学校を休んだ。その風邪を妻がもらい、昨日あたりから僕も喉が痛い。子どもたちが小さいころからだいたいこの順番である。下の子が幼稚園でもらってきた風邪を、添い寝する妻がもらい、僕がもらう。我が家はいまだに家族が川の字に寝ているのだ。長男は病気をしない。
▼寝る子は育つというが、うちの子たちは本当によく眠る。妻もよく眠る。夜は僕より早く、朝は僕より遅い。下の子は普段でも部活から帰って夕飯を食べるなり寝てしまうが、学校を休んでいる間はとにかく昏々と眠っていた。一昼夜眠り続けるとたいていはよくなる。その間いつもは食いしん坊なのに全く食欲がなくなり、ただひたすら眠っている。
▼病気をしない上の子も、なにかストレスがあると自動的に眠ってしまう。まだ口もきけない赤ん坊の頃、魚の骨が喉に刺さり、「ぐえーっ」と両手で喉を押さえて痛がるので心配したら、そのまますやすや眠ってしまったのには驚いた。高校受験前に一度だけ親子で話した時も、クッションをかぶってしゃくりあげているかと思ったら、いつの間にか寝息をたてていた。
▼うちの家族は不眠症と便秘には無縁だ。特に長男には便秘という概念そのものがないだろう。長男のトイレはあまりに短くて大か小か全く判断がつかない。彼は彼女ができて初めて、そういう事象がこの世に存在することを知ることになる。僕がトイレで新聞を読んでいると、「なんでそんなに長いん?したくなってからいけばいいやん」と言う。息子よ、そういうことではないのだ。普通は何事も難産するものなのだよ。
▼難産といえば、下の子は超安産だったが、初産の長男は少し手間取った。産道を通るときの看護婦さんの「がんばれがんばれ、おお、この子は心臓が強いねえ」という言葉が耳に残っている。強心臓の上に毛が生えているのだから怖いものなしだ。健康な妻の母乳を二歳になるまで存分に飲んだせいか、病気ひとつしない。
▼僕もここ数年、床に臥せるような病気はしていないが、夜中に目が覚めると心臓が早鐘のように打っている。これが無呼吸症候群の特徴なのだ、と強く思う。ゾウは百年生き、ネズミは数年で死んでしまうが、ゾウもネズミも生涯の心拍数はだいたい同じだという。まあ特別長生きしたいわけではない。子どもが独立するのを見届ければそれでいい。
▼日曜は手作り弁当を持参した妻と昼休みに現場近くの公園でランチ。

駐車場に車をとめ、公園のベンチまで歩く間にも金木犀の芳香が鼻をつく。見上げれば抜けるような高い空だ。隣りの市営グランドでは高校野球の試合が始まった。ブラバンの大音量を切り裂いて打球音が響く。球場が沸く。「打った!」妻と顔を見合わせる。
▼30分にも満たない時間だが、こういう時間が大事だ。なにしろ僕がやさしいものだから、妻も子どもたちも安心しきっている。

月曜はナスとミニトマトのパスタに冷しゃぶサラダ。