日本ハラスメント代表

立春の昨日は各地で春を思わせる陽気だった。九州では春一番が観測され、全国から梅の便りが届いた。僕が住んでいるところは先週末からぐずついた天気が続いている。これも春の徴候だ。冬は冷たい西風が吹くのが常だが、雨の日は東よりの風になる。大宰府の道真のところまで梅の香を運んだ東風である。
▼ここ数日来、巷は女子柔道のパワハラ問題でもちきりだ。15名もの選手が自分たちが所属する組織を飛び越えて監督による暴力行為を直接JOCに告発した。既に昨夏のオリンピック後には全柔連に直訴していたが、園田監督は注意処分だけで監督続行となり、身内では埒があかないと判断したのだろう。監督は会見で「自分としては指導しているつもりだったが、一方的な信頼関係だった」と語ったが、ここまでくると単なる監督選手間の行き違いとは随分趣が異なってくる。
▼報道が過熱し園田監督の辞任に発展する中で、さらに昨日弁護士を通じて、選手たちが告発に踏み切った動機を声明文の形で発表した。一番の理由は「憧れのナショナルチームの現状に対する失望と怒り」である。「人間の誇りと尊厳を踏みにじられた」が、「監督ひとりの問題ではなくパワハラを許す体質が問題」だとしている。
▼まず15人という数字。計6階級まんべんなく2〜3人ずつ、代表争いをしていた強化選手のほぼ全員にあたる。上村全柔連理事長は、「一人のことは念頭にあったが…」と述べているから、監督とそりの合わない選手が一人いるくらいの認識だったのかもしれない。実際に具体的なパワハラを受けたのが特定の一選手だったとしても、その場にいた全員が自分のことのように「ヒドイ」と感じたのは間違いない。
▼先日友人と飲んだ際もこの話題になった。「女子で暴力あるなら男子はもっとスゴイんじゃない?」「篠原監督相当恐そうだもんね」「徹底的にしごくって宣言してたもんなあ」「バケモンだよ。現役でも篠原にはかなわんだろ」「じゃあ篠原が出ればよかったじゃん」「ほんとだ。ワハハハ」「ワハハハハ」笑いごとじゃなく、現役バリバリの代表選手でさえ稽古をつける篠原監督や園田監督、その上に君臨する吉村強化委員長にかなう人はいなかっただろう。彼らはとっくに現役を引退しているにもかかわらず、どんどん強くなる。大きくなる。モンスターになっていく。
▼「まあ俺らの頃じゃ当たり前のことだったけどな」確かに僕らの時代にはこれくらいは当たり前のことだった。これくらいというのは、ビンタや竹刀の殴打による指導のことである。実際に見たわけではないが言い伝えによると、もっと前はこれが鉄拳制裁や木刀だったらしい。僕らの時代にはまだ、パワハラどころかセクハラという言葉もなかった。だが言葉がなかったからといって、事象そのものが存在しなかったわけではない。
▼近年ではこれらのハラスメントに夫婦間のモラルハラスメントが加わった。経済的あるいは体力的優位を利用して、男性側から配偶者に加えられる精神的嫌がらせのことである。夫と妻、上司と部下、先輩後輩、顧問と生徒、いじめの加害者と被害者…セクハラといいパワハラといいモラハラといい、みな例外なく立場の上の者が下の者に、その支配的地位を利用して行う卑劣な行為である。
▼今回のことで日本柔道の弱体化はいっそう進むだろうか。その答えはロンドンオリンピックの結果を見ればわかる。奇しくも五輪選手団長を務めた上村春樹全柔連理事長自身がいみじくも漏らしたように、「柔道だけがダメだった」のだ。変わるべきは時代遅れの柔道界に代表される日本社会のハラスメント体質だろう。テレビに映る神妙な全柔連理事たちの顔つきは、不祥事に揺れたつい先ごろの相撲協会理事たちの顔にそっくりだった。

月曜は手作りコロッケに真冬に夏野菜サラダ。全ての品にビーンズが入って食感が変わって楽しい。だが妻は下の子に「なんもかんも豆入れんで」と言われたらしい。

デザートは妻の手作り一番人気のチョコチップクッキー。