老いては子に従え

九州四国から東北北陸まで日本全国大雨の中、関東一円だけは秋雨前線が下がりきらず、いつまでも夏日が続いていたが、夜半ようやく激しい雨になった。恐ろしいほどの雷雨である。ここ数日は竜巻注意報も出ていた。栃木、埼玉、千葉では実際に大きな竜巻が発生した。竜巻なんて遠い外国の話で、日本なんて全然関係ないと思っていたのに。
▼かつてない規模の連休工事からこちら、雪崩式に通常工事が続き、今年も夏休みが取れそうもない。三日程度でいいから連休がほしい。一日だけだと何をするにも疲れがとれず、何もしないと気分転換にならない。現場が終わり、バスを乗り継いで会社に戻り事務処理をする。いくらやっても追いつかない。もう少しうまいやり方がありそうな気がするが、とにかく地道にやるべきことをやるしかない。
▼そんな中、懸案の大型物件を受注した。担当事業所の案件でこれほど気を揉んだことはなかった。今回ばかりはダメかと思った。理由は対抗馬が強力だったことに加え、入札直前に同じ取引先の別の事業所で、事故を起こすという致命的なミスがあったこと。普通なら辞退してもおかしくないところだ。半ばあきらめかけていたところ、紆余曲折を経てなんとか受注することができた。
▼仕事はとってからが本当の仕事である。正直歓びの気持ちは薄い。あるのは応援してくれた人、推薦してくれた人たちが不利にならないように、無事に工事を終わらせなければならないという使命感だけだ。プレッシャーというのでもない。淡々と責務を果たそうという気負いのない覚悟のようなものだ。気がつけばそんな心境になっていた。これが不惑というものだろうか。
▼下の子はあせもがひどくて夏中シッカロールで真っ白だったが、なかなか治らないので皮膚科を受診した。様子を見ていると随分いいようだ。妻が言うには、薬が効いたというより先生に診てもらった安心感の方が大きいという。夏休み明けの実力テストで、また50点満点でヒトケタ台を連発していたが、本人がやる前から「また勉強がわからんくなった。夏休みなんかなければいいのに」と言ってたから救いはある。素直な心があれば拾う神はいるものだ。
▼長男は来週もう受験である。千葉県の外房の真ん中あたりの小さな町で、試験日がわかった時には宿の予約はほぼいっぱい。期せずしてひとりには広すぎるツインの立派な部屋に泊ることになったのも彼らしい。「東京まで新幹線で、そこからまた新幹線?」なんてきいてくるが、往復の旅費も宿泊費も受験料までバイト代と小遣いで賄うのだから僕よりずっと経済観念のある立派な大人である。
▼彼はいつでも涼しい顔をしている。やりたいことを実現するために自分ができる範囲は自分でやるのが自然で不思議と思わないから、何事も他人のせいにしたり他人を恨んだりすることがない。依頼心がなく独立独歩で常に平常心だ。小さい頃からそうだった。騒いだり慌てたことは一度もない。落ち着いたものである。僕が半世紀かかってようやく会得しようとしている態度が生まれながらにして身についている。これはもう血筋としか言いようがない。もちろん僕ではなく妻のである。
▼皮膚科に行って部活を休んだ翌朝、下の子は階下で素振りをしていた。この暑い中、子供たちは一日中勉強した後、夜遅くまで部活に精を出しているのだ。大人の僕が子供より早く帰るなんてもってのほかだ。さあ、働くぞ!

火曜は夏野菜と豚肉丼。

水曜は豚肉のキムチ巻にドイツビールを買ってきて自分だけのささやかな受注祝い。フルーティーでうまかった。