日本三面オペラ

真冬なみの寒気が流れ込んでいる。陽が落ちると凍えるような寒さだが、日中は春の訪れを感じないわけにはいかない。暦の上では啓蟄。虫でなくてもわかりそうなもんだ。
▼一昨日、サムラゴーチ氏の謝罪会見が行われた。長髪を切り、無精ひげを剃り、サングラスを外して、外見的には普通の人になった。今までの身なりは、「現代のベートーベン」用の役づくりでしたと言ってるようなものだが、まあそんな演技、続ける方が辛いと思うけど。
▼それよりなぜ「今」なのか。まるでソチ五輪が終わるのを待っていたかのようなタイミングである。ソチ前に大騒ぎになり、ソチが終わってまた大騒ぎ。マスコミと握ったことは疑いえない。これまで散々氏を祭り上げてきたマスコミが、今度は何食わぬ顔でよってたかって吊し上げているが、まずはいっしょにこちらを向いて謝罪するのが筋だろう。日経はお詫びを載せてたけどね。
▼サムラゴーチ劇場以外にも、ソチ五輪が終わるのを待っていたかのように、3月に入って俄かに紙面が賑やかになってきた。大型バスの衝突事故があり、昨夏の三重女子中学生殺害事件の犯人が逮捕され、柏で通り魔殺人事件が起きた。さしずめ週刊誌なら「春の雪解け事件簿」とでも銘打つだろうか。
▼バスの運転手は睡眠時無呼吸症候群だったらしいが、今は11日連続勤務が問題視されている。乗客代表で顔だし取材を受けているパツキンロンゲ男は何物だ?ビジュアル的には言うことなしだが。運転手以外で唯一死亡した最前列の高校教師は当初、意識を失った運転手を励まし続けた英雄扱いだったが、今は万引で懲戒解雇されたことがわかっている。
▼マスコミの取材力には本当に舌を巻く。ほめてるんじゃないよ。そんなことを報道して何になるのかということだ。視聴者の興味を引くと思えば、死者を冒涜するような事実まで調べ上げ、公開し、骨の髄までしゃぶりあげる。一方で自らに都合の悪い事実には頬かむりする。
▼三重女子中学生殺害事件の犯人は近所の高校生だった。警察は被疑者の卒業を待って逮捕したというが、これもソチが終わるのを待ってというマスコミの意向かもしれない。事件直後のラインに「(平和な町で背筋が凍るような事件が起きて)恐ろしくて手が震える」と書き込んだ高校生。恐ろしくて震えるのは普通は「身体」である。「手」が震えるのは、その手にかけた者だけだ。
▼柏の通り魔犯の顔には軽い衝撃を受けた。24というが、まさに幼児の顔つきそのものだ。チャット仲間によると、なにかというと武器自慢していたらしい。子供は武器が好きだ。うちの子どもたちも武器が好きだった。ライトセーバーやビービ―弾という鉄砲でよく遊んでいた。僕らはチャンバラや銀玉鉄砲。でも普通は、いつの間にかやらなくなるものだ。つまり彼の精神年齢は幼児のままなのである。
▼マンションの自室から警察に連れ出される際、彼は二度バンザイを叫んだ。一度目は「ヤフーチャットバンザイ!」二度目は「除悪連合バンザイ!」これはチャット上の彼のハンドルネームである。「自己主張が強すぎて…」チャット仲間の評判は一様に芳しくない。そして彼の交遊関係は、このチャットグループだけだった。
▼事件の直前まで、彼は実家に住んでいた。家を出て独り暮らしを始め、ほどなくチャット仲間にも見放され、ついに彼はこの世にひとりぼっちになってしまった。小さな子供ほど孤独に弱い。生活保護を受けており、金目当てだったと供述しているが、典型的なアモク型犯罪である。社会的にここまで孤立してしまえば、もう自殺かアモクの二者択一しかないだろう。現在の日本において、彼が特殊な例であればいいが。
▼以上最近の社会面を見て思うことをつらつらと書き連ねてみた。表題は、僕が高校の授業中に読んだ本のベストワン、開高健の「日本三文オペラ」をもじったもの。盗んだ鉄くずを売り払ってホルモンを喰らう男たち。作中に描かれた時代の貧しくともおおらかな空気に比べ、三面記事に象徴される今の日本のなんと息苦しいことか。問題はうわべの豊かさではない。そこに自由があるかないかだ。

水曜は鮭の照焼にカボチャサラダ。

木曜はステーキに味ごはんにポトフ。

金曜は絶品からあげ。

土曜は豚肉とほうれん草の和風パスタ。