人として

台風の影響か雲が多い。陽が陰る分そんなに気温は高くはないが、湿度は高い。従って熱中症指数もかなり高い。こんな日は屋外より室内の方が蒸し暑いかもしれない。いずれにしろ不快指数が高いのはまちがいない。
▼さて、45日の免停期間終了を待たずして新車がやってきた。ムッスー号を返納して、従ってムッスーが亡くなってから、もうひと月が経つのだ。早いものだ。現在僕はこの新車を、先週から始まった大型物件を手伝ってくれる先輩現業社員の方に運転してもらって事業所に通っている。大型物件が始まるまでの約一ヶ月は、前にも書いた通り交通機関を使って会社ないし担当事業所に通っていた。月に二度の7時からの全体朝礼には始発でも間に合わないのでタクシーを利用した。もちろん自費である。
▼先週現場が始まると、事業所に来る作業員が一気に増えた。通常の営繕工事がせいぜい2、3人なのが二桁になる。すると中には僕の家まで迎えにくるという人が出てくる。かなり親しくて、かつ比較的うちが近い人だが、昨年の免停時は偶然そういう人と同じ現場になることが多く、結果的に半分以上同乗させてもらうことができた。
▼今年も先週の土日に仲のいい職人がうちまで回ってくれて、彼がその後一週間現場をあける間は、その間ずっと現場に来る別の会社の人に「あとはまたオレがやるから一週間だけたのむ」と作業員同士で話ているようだった。僕も彼を全く知らないわけではなかったので、よく考えずに甘えたのがまずかった。
▼月火と二日その体制になって、三日目の水曜のことである。15時に会社に翌日の人員、車輌を報告すると、配車係の男がこう言うではないか。「つかぬことを耳にしたけど、お前下請に送り迎えさせてるそうだな。それって人としてどうなの?そいつだけじゃなくて奥さんだって弁当作るのに早起きして大変なんだからさ。これは一言いわなきゃいかんと思って…」
僕といっしょに同じ現場に通うのに、彼の奥さんがいつもより何分早起きしなきゃいけないか知らないが、とんだ大悪党扱いである。彼が僕には「いいですよ」と言っておきながら他所では「たいへんだ」とこぼしているからこんなことになるのだが、それより「人としてどうなんだ?」と口幅ったいことを言う配車係である。「僕から頼んだわけじゃない」とだけは言ったが、腹に据えかねる物言いだ。
▼この男、配車係という立場を利用して重機車輌を自分の現場優先に配置すると陰口をたたかれ、下請に鼻薬をカガされている噂もある。まさにもし自分が免停になれば、初日から下請に送迎させるような男だ。だいたい配車係なんて、責任ある仕事をしなければならないキャリアでありながら対外的な仕事ができない人に、会社が仕方なく社内的に重要な仕事を与えているポストなのに、本人にその自覚がない。むしろ会社を差配していると勘違いしている。断っておくがこれらは僕が言ってるのではなく、同僚や下請が言っていることだ。
▼全くモチベーションだだ下がりだが、こんな人間は何もローカルの土建屋に限ったことではないのである。僕の担当事業所は、毎週土曜にメーカーと客先社員の合同パトロールがある。パトロールで指摘があると社名ごと公表されるので、客先に対する印象が悪く、どのメーカーも営業上非常に結果を気にしている。
▼しかしメーカーといっても工事業者ばかりではなく、パトロールにやってくるのも営業職や事務職だったりするので、工事を見て何が危険かわかるわけではない。勢い視点は垂幕の表示がないなどの形式的なものになる。昨日の工事は5現場25人が展開するかなり忙しいもので、垂幕の本数も不足していた。案の定作業中の職人から「パトロールにひっかかった。すぐきて」と電話があった。高所作業の垂幕はかけてあったが、見えにくい位置にあり、本来作業車一台ずつにつけるものである。
▼現場に行くと、待っていた事業所の社員が最初から喧嘩腰なのである。垂幕の場所を言うと、「ただ形だけやればいいってもんじゃないんだ。俺らもただ形だけ回ってるんじゃないんだ」と物凄い剣幕である。挙句の果てに「どこの会社だ」と人の名札をつかんでメモをとり、「日報に書いておくからな!」と人の顔に向かって指を振るう。なんかこの人にうらまれることしたかな。
▼「どこのどいつだ!」と名札をつかまれれば誰だった怒るだろう。胸倉をつかまれるようなものである。イタズラした小学生じゃあるまいし失礼極まりない。高所作業の垂幕の位置が悪いどころの話じゃない。この人はどうしてこんなに居丈高な態度になるのだろう。仕事を出してやってるという意識が、このような上から目線につながるのだろうか。「人として」なんて言葉、僕は一生使いたくないが、使うとすればこういう人たちに対して使われるべきだろう。しかし実際には僕が使われている。本当に悲しい。