笑神様は突然に

昨日までの雨が嘘のような好天である。今週は雨が降っているうちに終わってしまったな。とにかく日がたつのが早い。日が短くなってきたからか、なおさらそう感じる。
▼帰ってきた下の子が玄関入るなりニオイで「また魚?」と不満気に言う。そういえば昨日は鮭だったか。彼が言わなければ思い出しもしない。「オマエは肉尊魚卑だからな」と言うがピンとこないようだ。さては元の言葉を知らないな。「男尊女卑って言わない?それを知らないと意味わかんないでしょ」と言うと、ややあってプッと吹き出す。わかったかと思ったら「ダンソン」と言いながら踊りだした。なんだかお笑いのネタらしい。親が子供の琴線に触れるのはとても難しい。
▼タイで余生を送っていた日本人男性がバラバラにされて殺された。逆か。殺されてバラバラにされた。テレビで被害男性と交際していたタイ人マッサージ嬢と、その交際相手のタイ人男性(ややこしいな)のツーショット会見をやっていた。この女の別の日本人交際相手も不審な死に方をしている。男性は容疑を認めているが、女性は否認しているらしい。
▼「この期に及んで…」と妻はもらしたが、そういう妻も僕に知られたくない事実はけして口を割らない。このシラを切りとおすところは女性の特徴だと思う。イザという時に、男性の方が観念するのが早い。よく政治家が、知られては困る秘密は墓場まで持っていくと揶揄されるが、だとしてら女性の方が政治家に向いてるかもしれない。
▼政治家といえば、相変わらず「政治とカネ」のから騒ぎが収まる気配がない。今度は宮沢新大臣の収支報告にSMクラブへの出費の記載があったという。野党もマスコミも新旧大臣に総力取材だな。野党もマスコミも「あきれて物が言えない」と口をそろえるが、そりゃこっちのセリフだよ。ほかにやることないの?ちなみに優子ちゃんの写真入りワインとか、タレントのニャン2写真とか、スキャンダルのネタを簡単に売り渡すのも男性の特徴だ。
▼せっかくなので、行ったことがない人のために僕のささやかなSMクラブ体験をお話しましょう。勤めていたエロ本の編集長にそっちの趣味があって、取材名目で名古屋のSMクラブまで経費でプレイしに行ったことがある。東京ではなく、わざわざ交通費を使って名古屋まで行くというのは、人に見られたくない心理が働いていたのかもしれない。
▼編集費を使う以上、手ぶらで帰るわけにはいかない。僕はカメラマンとして帯同した。撮影を職業カメラマンにたのまなかったのは、経費の節約というよりは、やはり気心の知れない人に自分の性的嗜好をさらしたくない心理からだろう。僕も特にカメラを勉強したわけではないが、露出とピントさえ合っていれば写真は使える。
▼住所に従ってなんの変哲もないマンションの一室に入り受付をすませると、室内は昼間から遮光カーテンで閉めきられて薄暗い。その中にフェイクのレンガ模様の壁が浮かび上がり、鎖と黒革の手枷足枷がついた円形の磔台が据えられている。バタフライマスクをつけたマッパのM女が現れ、編集長が服を脱ぎ始めた。僕も必死にカメラをセッティングする。
▼「準備できたら合図してよ。始めるから」四つん這いになった女の横で、片膝立ちの編集長が声をかける。毛むくじゃらだ。僕が「OKです」と言うか言わないうちにファインダー越しにプレイが始まった。「ほーら、どうなんだ?ほら、感じてるんだろ、この牝ブタが!」編集長が女の尻をひと撫でしてはペチペチ叩く。
▼展開があまりに急すぎて、僕はこみあげる笑いをこらえきれず吹き出してしまった。異変に気づいた編集長とM女が顔をあげる。きょとんとした裸の男と女の姿がまたおかしくて、ツボにはまった僕は「ダメだ!」と一声叫ぶと冷たい木目調の床に転がりバンバン床を叩いて腹を抱えて笑った。そして笑いの発作がようやく収まると、あっけにとられた男女を後目に何事もなかったように三脚の前に戻ったのだ。
▼全くあれほど笑えたこともそう記憶にない。人間バカバカしいことを大真面目にやる姿ほど滑稽なものはない。カメラの前で裸になったのは僕も同じだが、その都度勉めて雑誌のために渋々やってる感を出そうとしたものだ。けどそんなのは自意識の問題にすぎないし、自意識なんて犬も食わない。彼はその後ヒット雑誌を連発する業界の大編集者になった。他人にどう思われようと、自分の道を歩んだ結果である。彼はスティーブ・ジョブスの言う意味での「愚者」だったのだ。

今日はブリテリに豚大根。