世情

今日から霜月。昼中ずっと雨が降っていた。雨勢はかなり強いが土砂降りではない。激しいというのとも違う。だが間断なくしっかりと降りしきる雨だ。しのつくと言うのだろうか。11月らしい雨だ。
▼産休中のヨガインストラクターに子供が生まれたらしい。子育てがあるから産休前と全く同じ状態に戻るとは思えないが、じき復帰することは間違いない。従って妻のインスト代行生活もあとわずかである。はじめは警戒していた生徒たち(オバサン)も、二、三回すると慣れて、やたらに話しかけてくるという。とにかく女性は自分のことを他人にしゃべりたいのだ。
▼資格はあっても実際にはできないという例は世の中に多い。いわゆるペーパードライバーだ。しかし実際に運転する楽しみを知ったら、免許を持っていることに満足する人は少ないだろう。免許とりたての上の子もそうだ。車はともかくインストラクターである。代行とはいえ、すぐに実践する機会があった妻は幸せだ。
▼ボスが復帰したら子分たちはどうなるのだろう。今は産休前にボスが持っていたコマを、妻を含め四人の弟子で回している。うち一人はお金持ちで、親に建ててもらった自分のスタジオがあるらしい。あとの二人はそれぞれ別の仕事を持っている。妻もたしか本業は主婦だったはずだが…
▼ボスが復帰してくれば子分は再びボスの一生徒に戻るほかはない。そしてボスの子供に熱が出た時とかにいそいそと代行する。これが最も当たり障りのないパターン。妻以外のボスの側近と参謀と補佐官の三人は進んでその地位に甘んじるだろう。だが妻はどうか。外面だけはいいが、いつまでも人の配下でガマンできる性格ではない。
▼妻がスタジオデビューする前、友人とその友人を相手に友人のうちで行われていた練習が、デビュー後も続いている。練習台なので最初のうちはタダにしていたが、今は自宅を提供してくれている人以外はレッスン料を受け取っている。妻はこの事実をボスに申告していない。
▼もっと重大な申告漏れもある。ボスは会社経営の大手スポーツジムなどで雇われ講師として教えるレッスン以外に、個人で主催している教室の収入を申告していない。半分ママゴトの妻ならともかく、不在時に弟子四人で回さねばならない規模の教室である。
▼しかし世の中の個人事業主のほとんどは五十歩百歩だろう。水商売なら100パー未申告でまちがいない。他の商売でも税理士の先生か民商に相談して節税というか、実際には全く税金を納めていないはずだ。まあグローバルの大企業が所在地を無人島に移して脱税するのに比べればかわいいもんだが。
▼世を騒がしている「政治とカネ」の問題も、そのような文脈でとらえなければならない。いい加減我々も、政治家もその事業活動にお金のかかるひとつの職業だと認めてあげなければ。法律で義務化されたいろんな報告が過小申告になったり申告漏れになりがちなのは当然だ。彼らも我々と同じで、利用できる制度(経費の税控除)はなんでも利用し、脱税すれすれの節税や所得隠しも辞さない存在なのだから。
▼今日のSONGSは中島みゆき。デビュー当初の「時代」や「世情」などの名曲は、小学生だった僕には早すぎた。ぶっ飛んでいると話題のオールナイトニッポンも面白いと思わなった。高校の時大ヒットした「悪女」の印象もあまりよくなかった。そんなわけで、この不世出の歌姫が僕の意識に上るのはずっと後になってからのことだ。
▼最愛の彼女にフラれた大学6年の秋から冬にかけて、僕は毎日中島みゆきのベストばかり聴いていた。そしてとにかくこの辛さを紛らわせることができるならオトコでも構わないという気持ちで入った三丁目のオカマバーが、偶然中島みゆきファンの集う店だった。偽って男色のフリして飲むのも辛かったが、寂しさが勝って結構長居した気がする。
▼その後大学をやめてエロ本の編集室に転がり込んでからも、しばらくは苦しんだ。遊びの師匠N氏と通った二丁目のジャズバーで、閉店後お店のバイトのマドンナ二人を連れ出して四人でよく飲みに行った。泥酔してカラオケで「時代」を歌ったら自分でシンミリして酔いがいっぺんに醒めちゃったな。でもそれまであまり口をきかなかった方のマドンナが「ただの酔っ払いだと思ったけど見直した」と言って、それからよく話すようになったっけ。
▼すっかり立ち直ってから、相棒の編集者と「夜会」を観に行った。増税ならなんでも反対だったひと昔前に比べれば、表面上は「財政バランスを考えれば増税やむなし」と考える人も増えてきたように見える。しかしいざ自分のこととなればそれはそれ、これはこれで、どこまでも利己的な経済主体こそが人間存在だと思うほかはない。上にあげたエピソードは、僕がそんなことを微塵も考えていなかった頃のヒトコマである。

昨日は大根煮とサラダ。妻とブックカフェに行くのが土曜の習慣になりつつある。