懐かしい人からの手紙

二日間しっかり雨が降った後の今日は、たっぷりの陽光に恵まれた気持ちのいい一日になった。やっぱり今年は暖冬だな。寒さに弱い僕にはずいぶん助かる。暖かいということは、雨が多いということだ。変りやすい天気で、明日の夕方からは再び雨になるという。
▼定時で帰る毎日だが、なにかとやることはあるものだ。もっとも打合せが二件、見積が二件もあれば、たいてい一日は過ぎてしまう。残業しないと決めてかかることで、むしろ密度の濃い仕事ができているような気がする。また、無理せず翌日に回せるものは回すことで、仕事の優先順位をつけることができるようになり、気持ちにも余裕が生まれてきたような気がする。なおかつアフターファイブを楽しむ時間も十二分にとれる。一石三鳥だ。
▼昨日は下の子のランニングシューズと僕のメガネを買いに、近くの大型ショッピングセンターに。長距離ランナーのシューズはまさに消耗品だ。穴があくというよりビリビリに破けるという感じ。靴をそれくらい酷使しているし、靴もそれくらい薄手のものなのだ。僕のメガネも消耗品。ホントは保護メガネをかけるところ、普段からメガネをかけているので、つい油断してそのままサンダーを使ったりして、火の粉で傷にしてしまうのだ。
▼出がけにケータイが鳴った。よく気にかけてくれる年下の友人からだ。彼は僕が大学をやめた後で知り合った、親友のボランティア仲間である。知らないうちに親友が帰国していて、いっしょに飲んでついさっき見送ったばかりだという。わりとヒマな時期だけに「もっと早く連絡くれれば会いに行けたものを…」という思いが頭をよぎった瞬間、「これだけ連絡がないと、こっちからかける気もなくなるよ」と言われた。
▼「○○(親友)が、××(僕)どうしてるかなあって心配してたよ」と言われ、はっとした。相手を思いやる心だけが、自分から相手に連絡する唯一の動機なのだ。僕が誰にも連絡をとらないのは、結局自分のことしか考えていないからだ。そういう人間に対しては、どんな人だってそのうち声をかけようという気も失せるというものだ。
フリースクールの先生をしている彼に、いつものように言い訳のように上の子の話をする。「もうほっとくしかないよね」と言うと、「ほっとくのはよくない。でもその年になってしまったらもうほっとくしかない」との答え。「ただただ時間を浪費してるだけなんだよ」と言うと、「俺たちだってどれだけ時間をムダにしたか。その姿を見て育ってきたんだよ。偉そうなこと言えないだろ」さすがだね。その通りだ。
▼最後に「○○(親友)に会って、上の子そっちにやるから面倒見てくれって頼みたかったのにな」と言ってみた。漠然とそんなことを考えていたのは事実だ。すると彼はこう言った。「子供じゃなくて、あなたが行った方がいいんじゃない?それは子供の希望じゃなくてあなたの希望でしょ?だったらあなたが行くしかない。あなたもまだ子供みたいなもんだ」と言われてしまった。
▼下の子のシューズを買い、上の子がバイトしている回転寿司を挟んでメガネを選ぶ。下の子のシューズの際に、ついでに一足しかなかった僕のカジュアルの靴を買い足した。僕のメガネの際に、下の子もメガネが欲しいという。赤が基調のスパイダーマンメガネは、やはり恥ずかしくて普段はしてないそうだ。「普通の黒縁のやつがよかったのにお父さんがそそのかしてだました」とか言い出す始末だ。ホントにコイツは世話が焼ける。
▼大騒動の末に買物を終え、デザートにヨゴリーノのアイスを買ってベンチに向かうと、見覚えのある人が座っている。お祭りで一番仲良くしていた人だ。一瞬どうしようか迷ったが、懐かしさに負けて声をかけてしまった。震災で中止になった翌年から行ってないから、もう三、四年ぶりになる。僕と認めると、みるみる相好を崩す。ちょっとイタズラ好きの、僕のよく知っている笑顔だ。
▼再会した恋人同士のように、そのままテーブルに座り込んで僕らは話し込んだ。隣りのテーブルで妻と下の子がデザートを食べ終わるのも気づかない。僕と同じで、彼も一人ではなく子供といっしょだった。少しの間、横に立って待っていた青年も、じきにあきらめて時間をつぶしにどこかへ行ってしまった。
▼「○×(下の子)痩せたなあ。前はプニョッてしてたのに(笑)」「駅伝やってて体脂肪ゼロですよ。それより立派な息子さんですね」「ああ、あれは長男。次男がやんちゃでな。ガキ作って大学やめて、俺もうおじいちゃんだよ。じき二人目も生まれる」「うちも上のがやめて帰ってきて。そこの回転寿司でバイトしてて今食べてきたとこです」「俺なんか2年で400万捨てたようなもんだぜ。自分でケツ吹くなんて言って結局俺が払ってる」「うちは一年もたなかったから傷は浅いけど、それでも150万かな。やっぱり自分で払うって行った自動車学校代、初回から肩代わりですよ」
▼「…まあな、男の子ってのはそんなもんだって思うしかねえのかもな。俺たちだってそうだったじゃねえか」ホントにその通りだ。僕には見えないことが、普通の人たちにはクリアに見えているのだろうか。

今日はヨガカレー。妻のインスト代行業も残りあとわずか。