今日までそして明日から

今日は午前中かなり雨が降った。雨の中の作業はたいへんだ。穴を掘れば土砂が崩れやすい。底にポンプを据え、法面にシートを張る。雨じゃなきゃやらなくていいことを二倍手間がかかる。雨が上がると空気が変わる。明日からまた冷え込むだろう。降ればたいへん、晴れれば寒い。生きていくのもたいへんだ。
▼社用車が変わって随分環境がよくなった。以前のケッパコ(軽バン)に比べれば、普通車なのでまず乗り心地が全然違う。おまけにナビ付のフル装備。仕事上一番役に立つのはBluetooth機能。ハンズフリーでケータイ使用が可能になった。運転中は通話しないのが常識だが、自分の身になってみると、急ぎの用件で相手がケータイに出ないだけでストレスがたまる。
▼当初みんなに懸念された「道具がたくさん積めない」という不便はほとんど感じない。逆に社長から「なんでこんなに汚いんだ」としょっちゅう怒られる。お客さんを乗せる状態じゃないというわけだ。同じ会社でも、社長が僕に求めることと、他の幹部が求めることは違う。人はいつまでも他人を自分より下に見たいものだ。そう思わないのは自分より上がいない人、つまりトップに限られる。
▼しかし土建屋で「汚い」と言われるなんて思いもしなかった。車だけでなく格好もよく注意される。いつも背広を着てろというのではない。上着は作業着でも下には襟の立ったシャツを着る。現場の途中で打ち合わせがあれば着替えて会うくらいの配慮がほしい。「やせろ」とも言われる。全てはお客さんに好印象を持たれるため。その点で僕のナリがよくないことは確かだ。こういうことは習慣である。長く格好を気にする環境にないと、なかなか意識が改まらない。
▼話が逸れた。仕事を抜きにすれば一番変わったのはオーディオ環境だ。ケッパコはAM専用だったが、FMどころかテレビも視聴可能になった。しかしそんなに変わった感はない。AM時代が実質2バンドで午前中はNHKのすっぴん、午後は民法の聞き流しというのは既に書いた。テレビは危ないのでほとんど見ない。FMクラシックアワーでいいのがあれば聴く。コンテンツが増えても聴く方が変わらなければ同じことだ。これも習慣。そこで車に乗っている時間が合えばNHK第二で英会話と仏語講座を聴くことにした。やっぱりAMだけでも同じか。
▼火曜は業界団体の忘年会。早めに帰ってひとっ風呂浴び、着替えて余裕の時間調整。北村薫「いとま申して2〜慶應本科と折口信夫」の父親の日記が、ちょうど年末にさしかかって興に乗ったところでケータイが鳴る。仲のいいゼネコンの営業が「遅れるから幹事に伝えといて」と言う。ということは僕も間に合わないということだ。慌ててうちを飛び出す。時間をすっかり勘違いしていた。昼間別のゼネコンの所長に時間をきかれて嘘を教えてしまったよ。
▼電車の接続がよく15分程度の遅刻ですみ、割と早く着いたつもりが、先述の二人も既に座っている。会は当然始まっていたが、結局僕が一番最後だった。12月に入ってからの連絡で、暮れの忙しい最中とあって出席率は七割方。代理出席なのか、担当者が変わったのか、全く知らない顔もある。僕は一応初見の人には挨拶してどなたか確認したが、みんな隣の人と話すだけで、後から僕に「あの人誰?」ときいてくる。
▼僕はこの日社長から、ある仕事上の情報をきいてくるように言われていたので、関係ありそうな人の横に行こうとしたが、座敷が狭くて移動が難しく思うようにいかなかった。仲間うちの宴席も情報入手の場。まして会費は経費で支払われるのだから完全に仕事のうちである。早くから乗り込み、いい位置を確保することから始められなければならない。最後に余った席に座っていてはとてもおぼつかない。営業の心構えからしてなってない。
▼メンバーの半分は工事屋で、あとの半分の営業プロパーはめったに顔を合せないから、普段何をしているのかわからない。この日はある大手メーカーの営業と話したのが収穫。その人は僕がいろんな人に気を遣いながら、やっとのことで聞き出すような情報を、なんでもよく知っていた。「そんなのはきけばすぐにわかるからなんでもきいてください」と言う。
▼きけばわかるというのは、きけばわかる人と、いつでもきけるだけの人間関係を作っているということだが、本人は仕事をとれなきゃ意味はないと言わんばかりだ。「高校から寮生活だった」というバリバリの体育会系で、「毎日飲んでます。たぶん自分がお酒が好きなんでしょうね」と豪快に笑うが、まだ若いのに立派な営業所長である。営業のやり方なんて誰も教えてくれないが、いいヒントをもらったような気がする。

今日は白菜と豚肉のミルフィーユ鍋。まだまだ人生これからだ。