ビジョンなき男の人生

一雨降ってグンと気温が下がった。陽が差さず、肌寒い。桜は満開だが、来週末までずっと雨模様だ。花冷えであり花曇りであり花雨である。俗に菜種梅雨というが、梅雨本番よりよほど梅雨らしい。催花雨というより花散らしの雨となるだろう。季節感のある言葉全部のせの導入だな。盛ればいいってもんじゃないよ。
▼新年度が始まり、下の子はさっそく弁当持ちで高校の長距離の練習に通い始めた。市内の桜スポットのひとつ、湖畔の満開の桜ロードを走るとあって羨ましい限りだが、本人にとてもそんな余裕はないらしい。初日から「高校はレベルが違う」を連発し、二日目にして早くも病院行きである。彼は「前に傷めた肉離れ」というが、両足とも同じように痛いそうなので、単なる筋肉痛だろう。まあ行って本人が安心するならそれでいい。
▼疲れきってゴハンを食べるとたちまち寝てしまう。それでも「走るのが楽しい」「ほかのことがどうでもよくなる。例えば遊びとか」と言っているのでやめるようなことはないだろう。「卒業したら就職する」と言っていたのが「大学でも走りたい」と言い出した。親としては、彼の希望通り事が進むことを願うのみだ。
▼全く予想だにしない事態に戸惑っている。うちの会社の社員旅行は隔年程度という話だったが、三年前に韓国に行ったきりだ。行くなら比較的仕事の薄い年度初めなので、今年もこのままないと思っていたら、昨日になって急きょ6月に決行するという。当社の決算は6月。おそらく当期利益が確定しての経営判断だろう。
▼その社員旅行の海外候補地が、なんと台湾。結婚20周年記念旅行と丸かぶりだ。こういう場合どうするか。結婚20周年の方をいじるという選択肢はない。それは妻が許さない。ひたすら国内候補地になるのを祈るだけである。でもわずかひと月以内にかぶりさえしなければ、僕だって台湾の方がいいに決まってる。新婚旅行とか社員旅行でもない限り、海外なんて行く機会がないからだ。
▼ホントに僕の間の悪さは筋金入りだ。中国社員旅行の直後の入社で、次の社員旅行の直前にインドネシアの大津波があり渡航自粛。代案の国内候補地がなんと実家の近く。僕はみんなと別行動で実家でお茶してた。まあ行きたいとこがあるなら社員旅行なんか待たずに自分でさっさと行けばいいわけで、問題は全て僕の人生に対する受身な態度に起因する。
▼最近、東京五輪後に神宮球場が建て替えられるというニュースが目にとまった。計画では神宮球場秩父宮ラグビー場の位置を入れ替え、神宮第二球場は解体されるという。これらの施設がある神宮外苑は、五輪に向けて建て替えが進む国立競技場の南に位置する。最初の五輪で東京は大きく変貌したが、今度の五輪でまた大きく変わろうとしている。僕がかろうじて知っているのは、その五輪と五輪の間の東京ということになる。
神宮球場は、僕が学生のころ足繁く通った数少ない場所のひとつだ。応援部リーダーの友人の詰襟の雄姿。六大学のマウンドに確かに立っていた同級生の純白のユニフォーム。僕とは違う青春を、ただまぶしく見つめるしかなかった。そして抜けるような快晴の初夏のある日、彼女と早慶戦の試合会場に急いだ場外歩廊のひんやりした空気は、今でもはっきり覚えている。
▼ところがこの記事を読んで、僕は初めて国立競技場や秩父宮神宮球場のすぐ横にあることを知った。神宮に第二球場やテニス場があることも知らなかった。神宮外苑の神宮とは明治神宮のことで、従って原宿、表参道、青山あたりとも地続きだという印象も全くなかった。地下鉄の最寄駅から目的地に直行していると、隣にあっても気づかないものだ。
▼野球場とはそれくらい大きな施設で、東京はそれくらい複雑な都市なんだと思う。僕の想像力のキャパはせいぜいのところ、六畳二間の官舎、二階建ての戸建、四階建ての公団と、職場と大型スーパーを車で結ぶ範囲だ。超高層ビルから大深度地下にまで広がる大東京は、田舎者の想像力には余る。僕が今、地方の土建屋の月給取りをしているのも、結局はそういうことなんだろうと思う。
▼さて、NHK第二にチューニングしてあるカーラジオからも新しいスタッフの声が流れてくる。車に乗っている時間が合えば、英会話と仏語講座を聴くようにしてもう半年になるが、ちっとも上達したような気がしない。じゃあ使えるようになったら何をするのか。きっとそこのところが明確じゃないからだと思う。そもそも学び始めた最初から、誰かと英語やフランス語をしゃべっている自分を想像したことなんて一度もなかった。それじゃあ何のためにやってるの?ということになる。まさしく自分が想像もしないことが実現するはずがないのだ。

一作日は肉じゃがにニラ玉にタマサラ。昨日は子供たちの門出を祝して外食。写真を撮るのも忘れて四人でがっついてしまった。全く僕のブログは日記じゃないよ。ただの心情の吐露だ。グダグダだ。