一からやり直し

火曜までのはずだった雨が午前中残った。明日以降も一日おきに降ったりやんだりの予報だ。全く親の仇みたいによく降るよ。この間大量の洗濯物を乾燥するのに毎日コインランドリーを利用せねばならず、小銭とはいえバカにならない。
▼土曜の模様替えの後、ついに妻が腰痛でダウン。医者によると案の定「疲労性」とのこと。「揉んだり叩いたりしたらダメ」で「ヨガもできない」らしい。確かにここんとこ下の子の卒業式やら入学式やらその間の準備やら何やらでやたらに忙しかった(妻が)。さらに入学してからの5時起き×3人分の弁当作りで疲労が蓄積し、先日の模様替えがトドメをさした格好だ。毎日のコインランドリー通いや長雨もボディブローのように効いただろう。
▼そんなわけで、ここ数日は布団の上げ下ろしだけは僕がやるようにしている。これだけでも結構な重労働だ。こまめに動くだけで身体があったまる。わざわざ運動しなくても、炊事洗濯掃除など家事をきちんとやれば、太ってるヒマなんかない。痩せたいなら、男子も厨房に入るべし。いずれにしろ肥満は日常の生活態度の問題である。いやしい上にナマケモノときたら、それはもう人間失格だね。
▼ラジオの仏語講座も新学期を迎え再び自己紹介からやり直し。半年ごとに、もう三巡目だが、いっこうに上達しない。今週はパン屋の場面。ジュブドレとかシルブプレとか、よく使われるフレーズが聞こえる。僕は大学で専門教育を受けながら、ここより先に一歩も進めなかった。それもある意味驚きだ。客がパンを買い、店員がレジで「サンクーロ、エバン」と答える。講師が「5ユーロ20サンチームのサンチームが省略されてますね」と言うのをきいて、30年来の謎が氷解した。
▼以前にも書いたが、学生時代の初期に通ったジャズバーに日替わりで女子大生がバイトしていた。近くのワセダやポンジョ、トンジョの才媛たちだ。ある日どういう気まぐれか、カウンターから出て来た彼女が、客で来ていた友人と二人で僕をつかまえて質問攻めにし始めた。「(ボク)学部は?」()内は実際には言われていないが僕にはそうきこえる。「文学部です。仏文科」「じゃあドゥサンチームは?」「えっと、二百、チーム?」「ドゥ、サンチーム」「ドゥは二、サンは百、チームは…英語?」二人は顔を見合わせた。「ダメだこりゃ」「(この子)ホントに何にも知らないわ」彼女は席を立ち、二度と目も合わせてくれなかった。
▼サンチームはユーロ(当時はフラン)の下の通貨単位。ドルに対するセントのようなものだ。そんなことも知らないでいくら勉強してもムダだ。どこの国に行くにも、まずは両替からだろう。シュルレアリスムもヌーベルバーグもない。一番基本的なところが抜け落ちているから、その上に何をやってもひとつとして身につかない。
▼日曜の映画と映画の待ち時間に買った矢部宏治「日本はなぜ、『基地』と『原発』をとめられないのか」を読了。赤坂真里「東京プリズン」が、感覚的に戦後日本の矛盾をついたフィクションだとすれば、これはそれを論理的に解きほぐしてくれるノンフィクションだ。自分の国のことながら、今までぼんやりと感じることしかできなかった不自由感の正体を、この本がクリアにして見せてくれた。それはこれまでも何度か言ってきたように、端的に日本が敗戦国だということにつきる。
▼日本はいまだに在日米軍という戦勝国の軍隊が駐留する被占領国だ。天皇制存続の可能性がゼロになる共産主義革命を避けるため、皇室をはじめとする日本の支配層は意図的に日米安保による占領状態の継続を選択した。穏健左派の拠り所である平和憲法の武力放棄条項も、駐留軍による武装解除のことで、自発的に棄てたのではなくホールドアップさせられたわけだ。宗主国米国の言うことは絶対だから、日本は独立した主権国家とはいえない。沖縄から米軍基地がなくならないのは、何も安全保障上の理由などではなく、憲法より日米地位協定の方が上位にあるからだ。
▼詳細は本書に譲るとして、新たな発見が二つあった。ひとつは欧米人の日付に対するこだわり。例えば日本が敗戦を受入れた8.15は、その四年前にルーズベルトチャーチルによって戦後の世界秩序が話し合われた日8.14を目標にしたものだ。昭和天皇誕生日の4.29に極東軍事裁判が始まり、今生天皇の誕生日12.23に判決が出るなどは、見せしめ以外の何物でもない。祝日をスライドして三連休にして喜んでいるようでは何もかも忘却して当然だ。
▼もうひとつは長年不思議だった政治家の不可解な行動に一応合理的な説明がつくこと。一例を挙げれば小沢一郎。つい先日まで自民党純化したような自由党党首として保守系議員の代表選手だった彼が、なぜ今山本太郎なんかといっしょになって反原発を唱えているのかどうしても解せなかった。が、なんのことはない。単に彼が日中国交正常化をはたした角栄直系の田中派で、岸〜安倍親米清和会と相容れないだけの話だ。真の対立は米国追従か独立路線かにあって、それ以外のことは右も左もたいした意味はない。
▼そしてロッキード事件で失脚した角栄をはじめ、リクルート事件の竹下、一億円献金の橋本、そしてこの小沢、あるいは金丸、額賀と経世会の実力者はことごとく東京地検特捜部に訴追されている。なんてのはよくできた陰謀史観なのだろうか。とにかく米国と官僚に逆らって勝ち目がないことだけは確かだ。

月曜はタケノコごはんに酢鳥。下の子の大好物で、食べている間に「おいしい」を10回以上言っていた。うれしそうに骨をしゃぶるところがますます犬っころに見える。

火曜は豚の味噌焼きにタマゴサラダにこれまたガードマン持参の蕨の煮びたし。絶品。全く僕は戦後日本の申し子だ。いくら年を重ねてもこのままでは一人前とは言えない。