とんだバカップル

ようやく青空が広かった。天気も趨勢のようなものがあって、長雨傾向だと予報より雨が伸びがちだ。逆にいったんあがってしまうと、飛び石の雨雲も消えてしまいがちだ。
▼さて、新年度の番組改編は何もテレビ番組だけではない。すっぴんのパーソナリティも変わる。きいている限りでは水曜Dユカイ、木曜麒麟川島、金曜高橋源一郎は残留。月曜松田哲と火曜の津田大介は交代したみたいだ。視聴率が影響するのかどうかはわからないが、残る人には理由がある。ユカイはアンカー藤井彩子との相性がいい。麒麟川島は声がいい。そしてインテリゲンゲンチャンはインテリだ。
▼そのゲンチャンの金曜すっぴんのコーナー「シネマストリップ」はデビット・リンチ特集。あの大流行した「ツインピークス」の続編が出るかもしれないという噂。「へー、エレファントマンもリンチなんだ」と意味もなく感心する。あと両高橋共「ブルーベルベット」を推奨していたが僕は観てない。「マルホランドドライブ」は観たけど全く触れられなかったな。
▼案内人の高橋ヨシキ氏(よく知らない)によるリンチ像は、アートとエンターテイメント性が両立する稀有な存在というもの。ブレイクした「ツイン・ピークス」は、元々アメリカのソープオペラという日本の昼メロにあたるテレビドラマ。どこにでもあるアメリカの片田舎を舞台に、一皮むけば誰ひとりマトモな奴はいないという世界観が、リンチ特有の虚構を交えながら描かれる。
▼「リンチ作品を一言でいえば?」というアンカー藤井アナの質問に、高橋ヨシキ氏が「暗黒の昼メロ」と即答するのをきいて「なるほど」と思った。結婚当初、ミーハーな妻がレンタルビデオで借りてきて夜な夜な見せられた「ツイン・ピークス」はなんのことかさっぱりわからなかったが、「暗黒の昼メロ」と言えば井上荒野の小説「悪い恋人」しかないからだ。
▼夫と夫の両親と暮らす主人公の二世帯住宅の裏山に、ある日造成計画が持ち上がる。開発業者の担当者は彼女の中学の同級生で、彼女は彼に声をかけられたその日のうちに彼と関係を持ってしまう。客観的に見て、彼女は反対派住民側の情報を悪徳業者に流すスパイとして男に利用されているだけなのだが、それだけでは「オール読物」だ。並行して彼女の主観が語られると、また違った景色が見えてくる。彼女が見ている景色が見えてくる。
▼優しいだけの夫、生意気盛りの息子、自分のことにしか興味のない義理の父母、真から心を許せない英会話仲間…彼らに囲まれた生活に、彼女は深い孤独と疎外感を感じている。しかし彼女の人生はそこにしかない。なぜならそれは彼女自陣が望み、選択したものだったから。経済的な安定という安心と引き換えに、彼女は自分自身を殺したのだ。
▼結婚20周年記念旅行に向け、着々と準備を進める妻がパスポートを取得したのと引き換えに、今度は三年前の社員旅行の際に取得した僕のパスポートがどこをどう探しても見つからない。うっすらと「次に使う時に出てこないと困るから」と思った記憶はあるから、僕がどこかに挟んだかしまったかしたに違いない。そうなると、もう僕が思い出すしかないので出てくる可能性は限りなく低くなる。妻に管理を任せておくべきだった。
▼とりあえずツアーだけは押さえようと、夕食後ショッピングセンター内にある旅行代理店に行くもタッチの差で受付終了。まあ食後のプチデートだと思い直して駐車場に戻りながら、並んで歩く妻のお尻をついうっかり撫でてしまう。ハッとして後ろを振り返ると車椅子のオジイサン。しっかり見られていた。妻がふくれるので「オジイサンびっくりして立ち上がるかも。人助けだよ」と言ったら笑ってた。
▼うちに帰ると下の子は既に熟睡。妻がお笑い芸人ばかりのドラマを見るというので、僕はパソコンで二夜連続のNスぺ戦後70年特集「日本人と象徴天皇」を見る。それから妻が寝た後でSONGSのラブ・サイケデリコを見る。


ウチゴハンは日曜記録会の下の子のために二夜連続のパスタ。トマトソースにレモンクリームソース。
▼妻は「悪い恋人」の主人公から最も遠いところにいる。従って「悪い恋人」に利用されることもない。心に虚無を抱いていないから、その手の輩がつけいる隙がない。ただしその他の点については夫婦共に隙だらけだが。デビット・リンチの風変りな作家性と商業性が相反しないような現代において、僕らのような裏表のない夫婦はめずらしいのだろうか。そうでもないと思うけどな。ていうかその手の輩だって映画や小説には出てくるけど、実際に見たことはない。

最近のお弁当。右の二段弁当が専門学校の上の子と高校の下の子の分。一番左のが僕の。