愛のまなざし

みどりの日に降り続いた雨が子どもの日にやんだ。天候を考えて4日はアウトレットモールに、5日は周辺の緑がきれいな美術館に行くことにした。いずれも2年ぶりの訪問だ。
▼雨のアウトレットモールは物凄い人出である。高速道路のインターの手前から延々車が連なり動かない。8時にうちを出て10時につくはずが駐車場まで倍かかってしまった。目的は台湾旅行用の僕のズボンと靴。僕のものでも子供のものでも、それが買物なら妻はうれしそうだ。

お昼は紅虎餃子房。僕はラーメンセット、妻は海鮮あんかけソバ。とにかくどの店も混んでいる。


▼今回、高速で初めてETCカードを使った。ETCを使うには車載のホルダーだけでは足りない。まずクレジットカードを作らねばならない。使ってびっくり、なにしろ半端な割引ではない。世の中余裕のある人ほど得するようにできてるって感想はおかしいのだろうか。とにかく現金決済が割高だってことだけは確かだ。
▼昨日は朝だけ現場。行ってみて連休工事の大失敗に気づいたが、今さらどうしようもない。知らぬが仏。せっかくの休みが台無しになるので気持ちを切り替えて明日まで忘れることにする。うちにとって返して前日買ったズボンと靴を履いて隣市の美術館へ。午前中は雲が残り肌寒いくらいだったが、僕は真夏の台湾の格好だ。坂の上り口にあるパン屋でランチ用のパンを買って美術館に通じる道を登る。
▼企画展は篠山紀信の「写真力」。60年代から活躍する大御所の50年分の回顧展である。写真はGOD(鬼籍に入った有名人)に始まり、STAR(現存の有名人)、BODY(ヌード)、SPECTACLE(ディズニー、大相撲、歌舞伎など)、ACCIDENT(東北大震災)の各グループに分類されている。写真の力というよりは、素材の力というべきか。
▼これだけ被写体が雄弁だと、誰が撮っても大差ないのではないかという疑問がわく。物故者と存命の著名人の差もよくわからない。たとえばONが亡くなったら、写真そのものは変わらないのにSTAR→GODに移るのだろうか。同様にスペクタクルの横綱や歌舞伎役者とスターの違い、ボディの女優とスターの女優の境界も不分明だ。つまりここでは全てが同じに見える。
▼ここに写っているのはVIPの著名人たちだ。The peapleであってa personではない。有徴の被写体に構図を決めてポーズをとらせ、連写で何枚もシャッターを切った中から一番いいものを選ぶ。さらに篠山自身の解説に「ここには写真の神様が降りてきた特別な一枚を集めた」とあるから、選に残った写真がどれも似てくるのは当たり前だ。被災者のレンズを見つめる目がどれも同じなのに驚いた。それがそのままファインダーをのぞく篠山の被災者観でもある。
▼GWにしては来館者が少ない。年配の人や家族連れ、カップルが多い。写真家よりも被写体に興味があるような人たちが、「この人誰?」「百恵ちゃんだ」と話している。カメラをやってそうな人はほとんど見当たらない。みんなよくわかっているのだろうか。それともそういう人たちはとっくに見た後なのだろうか。それとも地方にはそんな人はもういないのだろうか。僕らの目的も半分以上は近隣の散策である。
▼美術館を出るとようやく陽がさしてきた。新緑の遊歩道を歩きベンチを探してお昼にする。買ってきたパンがびっくりするほどおいしい。

緑地のそこここでボール遊びをする親子の姿が見られる。スーラの点描画そのままの光景だ。ここには光が溢れている。今見てきた写真に欠けているものは何だろうと考える。それは親が子を見つめるようなまなざしではないだろうか。人間を撮るには欠かせない視点だ。

▼それから近くの商業施設に回り、妻が洋服を見ている間に本屋で時間を潰す。カズオ・イシグロの新作「忘れられた巨人」と関川夏央の文庫「子規、最後の八年」を購入。このあたりは鉄板中の鉄板である。読むのが楽しみだ。

4日はトマトとアボガドの冷製パスタ。

5日はペンネグラタン。充実のGWである。