日本人の無意識

日曜日は朝から大雨。工場の軒先から滝のように雨水があふれている。竪樋の排水能力を完全に超える雨量だ。そのドシャ降りの雨の中、今日も現場である。
▼カッパを着た業者が夏祭りの後片付けをしている。こんな大雨の中でかわいそうだなと思ったら、準備の時は見られた社員の姿がほとんど見えない。考えてみればイベント屋に電気屋、それに運送屋でたいていのことは済んでしまう。備品は脇によけといて月曜以降に片付けるか、ひょっとすると全部外注に出しているかもしれない。労働基準法の縛りがある大企業の社員は、やたらに休日出勤できない事情もあるだろう。我々中小零細の人間に法律の適用がないわけではないが、大企業はいろいろたいへんだ。
▼担当事業所の夏祭りは例年雨に祟られる。今年も開始直前まで雨が降っていた。本番で上がっても、足元が悪くては興ざめだ。雨の多い時期を避ければいいのにそうしないのは、事業計画のスケジュール的にこのタイミングしかないのだろう。だったらやめてしまえばよさそうなものだが、要するに自衛隊の地域交流イベントのようなもので、事業活動を続けていく上での一種の近隣対策なのだろう。我々中小零細も近所づきあいがないわけではないが、大企業はいろいろたいへんだ。
▼先日テレビで「竿竹商法」という詐欺を紹介していた。♪サオヤ〜サオダケ〜のおなじみのメロディに一本千円の安値に惹かれて呼びとめると、「安いのはすぐ錆びる」と言ってワンランク上の商品を勧め、軒下の実寸に合わせて調整し、支払の段になって数万という法外な値段を請求するというもの。断ろうとすると「切った後だから難しい」と言われる。切る前に値段を確認すればよさそうなものだが、声をかけた方は金額を言われるまで相手が騙すつもりだなんんて思わないらしい。
▼この話、何かに似てる。新国立競技場建設の推移に似てると思うのは僕だけだろうか。1300億の予算で公募したデザインが、蓋をあければ開閉式屋根、移動式スタンド別で2650億かかる。世論の反発に慌てて計画を白紙撤回し、上限を当初予算に近いデザイン込み1550億に設定した見直し案が発表されたが、この金額では屋根なし、冷暖房なし、陸上競技施設としては使えないそうだ。ザハは悪くない。ザハ案なんて最初から無理じゃん。
▼途上国ではない日本でも、値段なんてあってないようなものだ。独禁法で「定価」が禁じられているのは、普通は競争が阻害されるからと考えられているが、実際はその逆で値段設定を上限なしのフリーにしておくためである。いろんな調整の後で屋根は竹中、スタンドは大成と決まってしまえば、あとは青天井。奇抜なデザイン、人件費や資材の高騰など高くなる理由はいくらでもつけられる。
▼サオダケの例は詐欺として紹介されていたが、ダマすというよりゼネコンと同じで儲けようとしただけである。同じ経済行為の一方が詐欺なら他方も詐欺だ。そう感じられらないのは、我々のうちに無意識に竿竹屋を下に、大手ゼネコンを上に見る権威主義が巣食っているからだ。それと竿竹には何人もぶら下がれないが、新国立競技場にぶら下がっている人はたくさんいるからだ。
▼日本人は無意識にモノには適正価格があって、仮に言い値であっても相手が法外な値段をふっかけるはずがないと思っている節があるが、言い値になれば竿竹屋でなくてもいくらでもふっかけるものだ。仕事とは、言い値が通る環境を作ることと言ってもいい。それを竿竹屋に言われたらびっくりして騙されたと思い、天下のスーパーゼネコンがふっかけるはずないからイラク人のアンビルドの女王のデザインのせいにするのは差別意識以外の何物でもない。
▼昨日は現場を終えてうちに帰って汗を流し、下の子を連れて事業所の夏祭りにトンボ返りした。屋台で串焼きを買い、生ビールを飲みながら人気のお笑い芸人のショーを見る。

陽が落ちるのが早い。七時にはもう真っ暗だ。乗ってきた車を置いて二人で歩いて帰る。途中新規オープンのラーメン屋に寄る。

▼お祭りに向かう車のカーテレビがシリア難民を特集していた。助手席でそれを見ていた下の子が「ああオレ日本に生まれてほんとによかった」としみじみもらす。「そうだね…」。そうだ、これに比べれば日本はマシな方じゃないか…。

今日は好物のナスとピーマン炒めにレンコンが加わった。