ラグビーW杯観戦記

見事なまでの秋晴れである。陽射しは強いが空気は清涼だ。今年は秋が長くなるらしい。これから約二か月の間、深まる秋をゆっくり楽しみたい。思えば季節を楽しむ余裕が出てきたのもここ最近のことだ。人間五十年。もう第二の人生ってことだね。
▼日曜出勤もなく、月、火と遅い夏休みをとって、土曜の終業は最高にハッピーな瞬間となった。期待値が高すぎて、その分土曜はハードな一日だった。その思いは妻も同じ。一日気が急いてどうしようもなかったらしい。不機嫌な妻をなだめてドライブにつきあう。車中さんざん毒を吐いてすっきりしたのか、帰り着く頃にはすっかり憑きものが落ちていた。結局女性はただ話を聞いてほしいだけなんだな。
▼うちに帰ってかぶりつきでラグビーW杯サモア戦を見る。結果は快勝。南ア戦はフロックじゃなかった。マン・オブ・ザ・マッチは例によって右足だけで16点を稼いだゴロちゃんだったが、この試合の真のMOMは背番号14ウイングの山田選手だろう。前半終了間際のトライは彼の個人技で奪ったものだ。それ以外にも彼のランで大きくゲインする場面が見られた。
▼日本の場合、15人選手がいてトライの匂いがする選手は一試合一人いるかいないか。サモア戦の場合、それは間違いなく山田だった。時の人ゴロちゃんだってキックはともかくランはサインプレーでやっとトライできるかどうか。だからリードを広げた後半は本来4トライ以上の勝ち点1を取りにいきたいはずなのに、山田が負傷退場した後はトライできる気がしない。リーチ主将の選択肢はゴロちゃんのPGしか残されていなかった。
▼エディHCが「点差ほどの実力差はない」と言ったスコットランド戦の敗因も、結局は決定力不足だ。ボールへの集散は日本の方が上。だがボールを支配してもゲインはできない。ひたすらラックから左右に展開するシーンが繰り返されるだけ。そのうちインターセプトされてそのままトライ。その逆はない。この試合、山田は体調不良で出場していない。
▼歴史的な二勝目を上げたとはいえ、目標のベスト8は苦しくなった。日本が決勝Tの常連になるには、山田のようにトライの期待を抱かせる選手がバックスにもう一人二人ほしい。自陣からランでトライできる走力があれば別にフォワードでもいいけど。スコットランド戦で全く通用しなかった選手は実は山田の控え選手で、大幅な戦力ダウンだったわけだ。それをマスコミが対ス戦秘密兵器の快足ウイングみたいな言い方をするからおかしくなる。
▼この山田、U17、U19と順調にキャリアを積んでいるが、前回W杯で選出されなかったというから驚く。ゴロちゃんも初のW杯だ。彼らの才能は日本人では群を抜いている。ラグビーに限らず物事は全て才能である。それは素人目にもハッキリ映るものだ。前回大会の強化委員の見識を疑う。業界にドップリつかった人ほど実力とは関係ないしがらみで目がくもってしまうのだろうか。勝てないはずだ。
▼ゴロちゃんのルーチン、エディHCの手腕と合宿のハードワークばかり強調されるが、日本躍進の最大の理由は、ある意味この「業界のしがらみ」から自由になったことだと思う。それはどんな組織にも存在する力学といったものではなく、関係者全員が無意識のうちに縛られていたある種の固定観念のようなものだ。つまり清宮氏が言ったように「代表監督は日本人じゃなきゃダメだとか、15人のうち外人は何人までというようなこだわりが何の意味もないことに気づかされた」。
ラグビーはインターナショナルとリージョナルの関係について考えさせられる不思議なスポーツだ。イングランドウエールズアイルランド…発祥の地イギリスの小さな島の、さらに小さな一地方のそれぞれが、全て世界のトップ10内にいる。あとはNZ、オーストラリアなどの南半球勢。つまりはほぼ旧大英帝国圏内の地域だ。世界中から選手を集めた日本が、正確には国とはいえないイギリスの一地方にかなわない。それでいて助っ人が半分を占めてもジャパンはどうしようもなく日本的である。固定観念のしがらみを断って一歩前進した日本がぶつかる次なる壁だろう。
▼前述の山田は5才からクラブチームでラグビーを始めた。ゴロちゃんもそう。少子化の昨今、ラグビーのような大人数の団体競技は部員を集めるのも一苦労だ。一学年で15人はとても無理。ひとつの学校でも難しく、公立高校は近隣の数校で合同チームを編成しているときく。花園や秩父宮で高校や大学の伝統校同士の対決が盛り上がったのは僕ら第二次ベビーブーム世代まで。そのことが逆に幼少期からラグビーに親しむクラブ文化の浸透につながった。
▼楕円のボールに5才から触れるのと、高校からラグビー部に入るのでは全然違う。全体としてラグビー人口は減ったとしても、一人の山田やゴロちゃんを生む確率は今の方が高いだろう。5才どころか生まれた時から枕元にラグビーボールが置いてあるようなラグビーの祖国イングランドと、日本の高校の部活のラグビー部員を同じ裾野の数としてカウントできるかどうかは甚だ疑問である。以上、中継は僕の居間からでした。

金曜はレンコンモチバーグに鶏の炒め煮。

土曜はナポリタン。

今日は二夜連続のパスタ。