幸福追求の権利

体育の日を過ぎたというのになかなか寒くならない。暑さ寒さも彼岸までというが、彼岸より大きな変わり目はだいたいこの「体育の日」である。秋物の上着がないと嘆くのが今時分のブログの恒例になっていたが、先日東京行に新調したパーカーを着る機会がない。やはりエルニーニョの年は冷夏暖冬か。雨が近いせいか。
▼今期は異様に工事量が多い。今年はノルマが5倍になったので、受注が多いのにこしたことはないが、いろんな人の思惑があってなかなか一筋縄ではいかない。なんとか絵を描いた通りの流れになってはいるが、手放しで転がり込んでくるものはひとつもない。仕事が欲しくない人など一人としていないからだ。
▼剛腕のフィクサーなら自分の思い通りに振り分ければいいが、生憎そんな器量もないのでみんなの不興を買わないように慎重にやらなければならない。様々な物件をふるいにかけ、是が非でもやりたいものとそうでもないものに分ける。関係者の意図を汲み、利害を調整する。
▼時により、相手によっては、それが個人的な接待で済む場合もある。だがあまりに露骨で直接的でもいけない。バーターだったり順番だったり貸し借りだったりもあるが、最終的には押しの強さである。やるという意思を曲げない方が勝ち。だから考えに考え気を使っても、結果がいいとは限らない。
▼水曜はその接待。業界団体の会合でもよく顔を合わせる気の置けない間柄。ということで服装はカジュアルにした。やってきたお二人ともこの業界には珍しくスマートで、ジーパンにジージャンといういで立ちだったがどこか変だ。僕の背広が一張羅のように、彼らは私服に弱いのか。いや、そんなはずはない。
▼日ごろ背広姿を見慣れていて単に私服に違和感があるというのでもない。その証拠に何時間たっても目が慣れてこない。背広を着てないとなんとなく頼りない。僕らはもうそんな年なのだ。背広もサラリーマンの制服みたいなもんだ。いい年の日本人には制服や作業着しか似合わないのかもしれない。
▼いつものように最初の食事だけこちらでセットし、あとは相手の行きたいお店に行って支払いだけする。女の子のいる店を二軒回ったがどちらも貸切状態。平日の夜はこんなもんか。それともお店のせいか。お客さんが女の子に言う。「○×ちゃん(僕)こう見えて結構キツイんだよ」ヤバイ、僕がブスに厳しいのを見抜いてる。気をつけねば。
▼さて、公務員専門学校の秋休みも終わり、上の子の試験結果が出そろいつつある。本命の市役所は休み前に落ち、休み明けに次善の税務署と学校事務の落選が決まった。あまり気ノリしない刑務官だけ一次通過。世の中は需給バランスだ。就職戦線も例外ではない。人気の高いところほど難しく、簡単なところは成り手がいなくて誰でもいいから来てほしいところ。
▼公務員試験はこれでオシマイ。今後主戦場は民間に移る。もちろん新卒対象の上場企業は既に内定が出ている。残るはローカルの中小零細のみ。結果が出る前は刑務官を蹴って民間を受けると言っていた彼も、初めて合格したことがうれしいのか二次の面接までやると言い出した。刑務官と言えば僕の柔道部人脈の中でも程度の悪い方の就職先で、その顔触れを思うとわが子の現状が俄かに信じがたいが、これが現実だ。
▼彼は生まれてこの方、人の世の矛盾や不公平に心を傷めたことなど一度もないだろう。そして自分の生活のためだけに就職先を決めようとしている。いわば究極のエゴイストだ。世のため人のために働こうとしない人間を、社会の方で必要とするはずがない。天下国家について考えろとは言わないが、この意識の低さはどうだ。
▼僕が子どもたちに教育らしい教育を授けなかったとしたら、子どもは素の僕の背中を見て育つしかない。箸の上げ下ろしから字の癖に至るまで、彼は僕のコピーなのだ。やはりこの体たらくの責任は、幸福以外の価値観を提示できなかった僕にある。

月曜レンコンバーグ。

火曜牛肉とピーマン炒め。

水曜会合で木曜揚巻。妻と結婚した僕は確かに幸せだ。上の子が何の不思議もなくマネしようとするのも無理ないか。