このろくでもない世界

日曜の冷え込みも束の間、月曜には再びひぬるい秋が戻ってきた。まあ日本シリーズが終わるまでは選手のためにも極端に寒くならない方がいい。
▼めざまし占いで久々1位だった月曜は最悪の一日。日曜の強風で工事の埃が工場内に回り真っ白。午前中いっぱい掃除と養生をやり直し、午後から再開にこぎつけたと思ったら今度は煙が充満して大騒ぎ。10年以上やっててなんだが、つくづく稼働中に工事するもんじゃないと思った。やっとのことで終わった帰途、担当者から電話があり「音がうるさい」ととどめのお叱り。埃、臭い、音と見事に工事クレームの三冠王や〜、いやスワローズの若武者山田のトリプルスリーや〜。
▼朝礼で例の傾斜マンションを引き合いに出して「工事の責任は全て我々にあるから安心して作業してください」と話した手前、作業員を怒るわけにもいかない。前日の午後抜けたツケは大きかったが、頼んだ監督のせいにするわけにもいかない。傾きマンションの一件がなければ、今頃みんなに八つ当たりして現場の雰囲気が最悪になるところだった。人間自分の落ち度を他人のせいにすることほどみっともないことはない。おかげで顰蹙を買わずに済んだ。全く三井住友建設さまさまだよ。いい反面教師だ。なかなかこの話題から抜けられない。
▼火曜は休工のはずが別の事業所の緊急工事で出勤。半ばヤケクソで仕事して直帰し、気分転換に妻と近所のショッピングパークでデート。すると立体駐車場と商業施設をつなぐ渡り廊下から見下ろす狭い敷地に見たこともない巨大なボーリングのやぐらが組まれている。思えばここも三井系の施設だ。でもたかだか四階建てで施工したゼネコンも違う。そこまで何もかも再調査しなければならないのだろうか。杭打ち工程の杜撰な管理が常態化していたことを業界全体で告白しているようなものだ。
▼ボーリングマシンは動かない。マシンが動くのは閉店した後だ。午後10時から朝の8時まで、工事は客がいない時に行う。僕も他のショッピングモールで経験があるが、人が寝静まった後にやる工事ほど嫌なものはない。僕が子供の頃はデパートにも定休日があったが、今やあらゆる商業施設は年中無休。スタッフの休みは交代制だ。そして工事や配送などのバックヤード業務は夜間に行われる。休まない。眠らない。それが消費者サービスの基本であり、反対する者は旧国鉄労働者扱いだ。
▼日経「私の履歴書」は、現在国鉄民営化の英雄JR東海名誉会長が執筆中である。もちろんJRの工事も終電から始発までの間に行われる。僕も経験があるが、本当に嫌なものだ。でもそのおかげでメシが食えるのだから文句はいえない。一億総活躍社会ならぬ、一人の英雄と一億総奴隷社会だ。英雄は「私の履歴書」に得意げに半生を語り、奴隷はブログで愚痴をこぼす。
▼秋冬色にリニューアルされたばかりのプロムナードを妻と歩きながら思う。傾きマンション事件の底流には、三井三菱住友系のデベロッパーが開発したマンションを購入し、三井三菱住友系の商業施設でショッピングを楽しむような我々自身の生活態度がある。我々は自分自身の快適な消費生活を支える奴隷だ。でも妻を喜ばせるには、このまま頑張れるだけ頑張るしかない。マンションが少し傾いたのは、奴隷の一人が疲れて支えきれなくなったのだろう。
▼僕には見える。映画「テルマエロマエ」のウォシュレットの下で何人もの奴隷が歯車を回している様が。表の利便性の裏にバックヤードがあるのは昔も今も変わらない。ただ現代社会は一人二役になった。我々はウォシュレットの便座に座り、歯車も回す。
▼フードコートで夕食をとり、いつものブックカフェでコーヒーを飲む。高橋源一郎の「僕らの民主主義なんだぜ」とミシェル・ウェルベックの「服従」を購入。読書欲が少し満たされる。安いもんだ。日曜は芋を洗うようだが、平日の夜はさすがに空いている。
フードコートのセルフうどん。

その頃留守番の子どもたちの夕食。こっちの方が豪華である。お義父さんが肺炎で入院したらしい。たしか昨年の今頃も軽い脳梗塞で入院したはず。年も年なので心配だ。