冬の空

今冬一番の寒波でようやく冬らしくなってきた。明日はひと月ぶりの雨。その後は気温ヒトケタの厳しい冷え込みが続く。季節が動き始めた。一見逆方向へ進むように見えても、動かないと春は来ない。夜明け前が一番暗い。暖かくなる前が一番寒い。
▼相変わらず無休の忙しい日々が続く。得意先の賀詞交換会で社長と挨拶に回ると「○×さん(僕)にはホントによくやってもらって。いつ休んでるんですか?」とねぎらわれる。すると今度は社長「バカ野郎、ブラック企業と思われてるじゃないか」と叱責。いったいどうしろっちゅうねん。
▼年が変わって日経夕刊のコラム「明日への話題」の執筆陣が入れ替わった。今回のメンバーは僕好みの人選で毎回楽しみである。月曜?火曜元厚労事務次官村木厚子氏、水曜が詩人で美術評論家建畠晢氏、木曜宇宙飛行士の山崎直子氏、金曜が詩人の佐々木幹郎氏、土曜が評論家の矢野誠一氏というラインナップ。
▼このうち僕が今のところ最も面白いと思うのが元厚労次官の村木氏だ。まだ2クール目だが、彼女がこれまでどんな人生を歩んできたかが行間から垣間見える。例えば友人夫婦がマレーシアで立ち上げた障碍者施設ムヒバの話。他の施設で自分は見学者にすぎないが、そこでは自然に体が動き入所者といっしょに歌い踊っている。それは弱者がケアする対象ではなく共に生きる仲間になっているからだ。我々もそのような社会を作らなければと続ける。
▼村木氏といえば郵政課長時代に汚職嫌疑をかけられ逮捕された人物である。その後疑惑が晴れて復職し、事務方の最高峰事務次官まで登りつめた。冤罪にも心折れず、波乱万丈の人生を切り抜けることができたのは、彼女自身のこのしなやかな魂に負うところが大きいと思う。
▼人生の豊かさとはなんだろう。多様な経験それ自体ももちろん大切だが、それだけが全てではない。自己の体験をどう捉えるか、その人の感性が問われる。とかくお堅いイメージのある官僚だが、彼女がそのキャリアの中で経てきたさまざまな体験を、瑞々しい感性で受容してきたことが、コラムを読めばわかるのである。
美術評論家建畠晢氏は期待はずれ。彼の美術評論は一度読んだことがある。難解でとても理解できたとは言えないが、印象は悪くなかった。詩人としての仕事は知らない。一般に人の語りは二種類に分けられる。個人的な事柄から始めても、最後には普遍的真理について語る公益志向。逆に一般論から始めてもいつしか自分語りになっているエゴイスト。村木氏が前者で建畠氏は後者にあたる。コラムという簡易な形式がそれを明らかにする。
▼ゲスの極みとベッキーの不倫騒動、SMAP解散報道に揺れる芸能界を除けば、ニュースは8割方スキーツアーバス転落事故とカレー屋COCO壱番の廃棄カツ横流し事件だ。このニュースを見て他の日本人がどう思っているか知らないが、僕が真っ先に感じるのはいったい中国とどこがどう違うんだろうということだ。
▼中国で死んだ豚肉が流通したり、タイヤを刻んだタピオカが出回ったり、橋桁から落ちた列車を埋めたり、薬品倉庫が大爆発したというニュースを聞くたびに僕らが、なんて破廉恥な国なんだと思うほどには、ほとんどの中国人はなんとも思っていない可能性はかなり高い。日本でもそのような食品偽装や激安ツアーバスの重大事故が後を絶たないが、我々がそれを一部の悪徳業者や悪人の仕業に帰して憤るのと同じことである。
▼正月に実家に帰省するたびに空気が汚いと感じる。雨や雪がひと降りすれば車は真っ白だ。やはり中国からくるPM2.5のせいか。北京の大気汚染警戒レベルも上がりっぱなしだし…と思っていたら、お義母さんの満州の思い出話に「中国は石炭をたくから冬は真っ白になる」という話が出た。
▼空気の汚れは急速な工業化による大気汚染というよりは、石炭ストーブによる伝統的なものだ。報道のやり方にも問題があるが、我々はもっと冷静になるべきだろう。隣人を悪く思うよりわが身を省みる方が先だ。



火曜ミートスパ、水曜ミルフィーユ鍋、木、金ヨガカレーで写真なし。今日はビックリチキンカツ丼。