動く人、動かない人

GWも早くも終了。連休明け初日の気分はサイテーだ。僕の気分に合わせて天気も湿りがち。ここひと月の間に4連休と6連休があったのに全くそんな気がしない。こんなに仕事が嫌なんて僕は病気なのだろうか。さて、GW紀行の続きである。
▼両親との小旅行の帰りに街で下してもらい、連休中に読む本を漁る。この街一番の書店だけあって品揃えがいい。ウリポの作家ペレックの本が3冊もある。秘かにブームが到来しているのだろうか。うちにも原書が4、5冊あるが、もちろん手つかず。今後の人生で原書に目を通すことはもうない。訳書で読むかどうか。が、日経書評欄紹介の「オリンピック経済幻想論」のみ購入。訳も読まないな。
▼著者は過去の開催都市における五輪前後の様々な経済指標を検証し、いわゆる五輪による経済効果と言われているものに疑問を投げかける。著者によれば、オリンピックが現在の形になった1984のロサンゼルス大会以降、成功といえるのは夏冬合わせても唯一バルセロナのみ。それも観光都市としての潜在的ポテンシャルに加え、五輪云々以前にきちんとした都市計画があったからだという。
▼たいていの五輪は、レガシーどころか負の遺産しか残らない。無秩序な関連施設の建設やインフラ整備の結果、住民環境は損なわれ、当初予算を大幅に上回る巨額投資の返済が、本来なされるべき公共サービスを圧迫し、残る施設の使用料は高額で富裕層しか利用できない。なぜそんなことになるかというと、そこに利権が絡んでいるからだ。ドタバタ続きの東京五輪も早くもそんな臭いがプンプンしている。
▼その後、電車で一駅先にある学生の頃通っていたラーメンの名店の味をインスパイア(リスペクト?)しているという店(ややこしい)を訪ねた。今回の帰省の主眼は、この遠方に移転した本家を当時いっしょに通い詰めた友人と訪ねることだったが、事前に何度電話をかけてもでない。ご主人かなり高齢なので、連休中は休みなのかもしれない。弟子筋(?)で我慢する。かなり近いがやはり似て非なるものだ。
▼3日は大雨の中、満を持して友人とラーメン巡り。地場中堅総務部の友人は9時5時楽勝ライフかと思いきや、GWは暦通り。ここ半年ほど平均22時帰宅だそうだ。世の中甘くない。こちらの思いをよそに彼は遠出どころかハシゴもしぶる。かなりの温度差である。似たもの同士のつもりでいたが、彼は追憶とは無縁の人物だ。近場を二軒回ってウチノミに切り替える。
▼いつものように離れの大画面シアターでボクシング鑑賞。メイウェザー、パッキャオ引退後のボクシング界はロシア人の独断場。特にライトヘビーのコバレフ、ミドル級ゴロフキンの強さは群を抜いている。負けなしどころか全KOである。黒人やラテン系も身体能力は高いが、戦闘能力はロシア人が圧倒的に上だ。ほとんど人間兵器、いやロボコップ、いや機械ダー。
▼ボクシングは正月にほとんど観ていたのですぐネタ切れ。次に原一男のドキュメンタリーを見る。ドキュメンタリー映画の鬼才も御年とって70才。「全身小説家」以降新たな作品を出せずにもがいている。「さよならCP」「極私的エロス」「ゆきゆきて神軍」「全身小説家」。僕の感想を言わせてもらえば、前二作はキワモノ、後の二作はキャラが全てだ。
▼今、氏が取り組んでいるのは水俣病を主題にしたもの。それから沖縄の基地闘争を取り上げる企画が外国のコンペに通って賞金を得た。撮るのはこれからだ。全部大文字の、「」付きのテーマである。大丈夫だろうか。以前ディレクターの友人が「困ったときのホームレスみたいな企画だけはやりたくない」と言ってたような気がするが、氏の発想は全てがそれ。まさに全身ドキュメンタリー作家だな。
▼友人は最近、三菱自動車株で一千万以上すったそうだ。彼が言うには、民主党時代に日経平均が八千円だった頃、購入時点からそのくらいマイナスだったので、ずっと塩漬けにして放っておいたら、アベノミクスであと少しで元に戻るというタイミングだったらしい。アベノミクスの本質がよくわかる話だ。要するに円安株高誘導による株券の塩抜き以上のものではない。
▼僕なら腰が抜けるところだが、友人は「このまま結婚しないならさっさと仕事やめて悠々自適のつもりだったけど二、三年延びたな」と意に介さない。雨がなかなかやまないと思ったら川の音だという。帰りに庭の石垣から下をのぞく。もう少しするとホタルが乱舞するという。見上げると息を飲むような星空である。彼のゆったりした性格は、この環境におうところが大きいかもしれない。
▼4日も似たような過ごし方でいっぱいまでダラダラして5日の夜に戻り翌日出社すると、社長が「おう、オレもプライベートで熊本行って昨日帰ってきたよ」という。さすがに人の上に立つ人は行動力が違う。しかし熊本で学生時代を過ごした友人は、いっしょにいる間熊本のことをおくびにも出さなかった。ジタバタしないのもひとつの見識だと思う。ラーメンついでに物見遊山であわよくば熊本まで足を伸ばすつもりでいた自分が恥ずかしい。
▼ロンドンにイスラム教徒の市長が誕生した。リベラルを自認してきたつもりだが、現実の方がよほど先を行ってる。進歩派をきどってバタバタしても所詮この程度だ。