我も人の子彼も人の子

三日続いた大雨の後は快晴の夏日である。汗ばむ陽気だが、空気は乾いて気持ちがいい。
▼相変わらずヒマな日々だ。しかし工事がない今こそ、水面下でいろんなことが進行している。雨漏れ対策やドブさらいなど日々の営繕から、大型プロジェクトの予算取りまで対応に細心の注意を要する。いずれにしろ最終的には人間関係だ。裁量権のある人と何でも物を言える関係になっていることが大事で、今から動いてどうなるものでもない。
▼僕は本当に勘所がわかっていない。中途入社の僕に仕事を身体で覚える時間はない。どうせ半端なら現場で作業員といっしょになって汗かいたり酒飲んだりするより、仕事なんか知らなくても役所でも担当事業所でも毎日通って顔を覚えてもらった方がずっとマシだった。気に入られて情報をもらい、話が具体的になれば「技術者をつれてきます」で済む話だ。今さらだけど。
▼思えば都落ちして塾の講師になった時もそうだった。僕が最初に配置された教室の責任者は、仕事の第一は生徒を集めることで、子どもの成績をあげるのも合格実績もそのための手段にすぎないと思っている人だった。「素人だから」と気後れする僕に、「僕が君に求めているのはそんなことじゃないんだけど、君はまずはちゃんとした教師になりたいんだね」と言ってそれきり何も言わなかった。全く泣きたいほどズレている。
▼今日は午後から同僚と現場の下見半分のドライブ。今期の見通しから今後の、従って残りの会社人生の見通しの話になる。彼が地場の某ゼネコンは50から給料が下がる話をすれば、僕も別のゼネコンの同い年の共通の知人が部長になった話をする。すると彼がまた別のゼネコンの社長が50だという。僕らはもうそんな年だ。これから出世するというより、今がダメならあとは下るだけなのに、現実が全く見えてない。時間がたてばまだ上がるような気でいる。
▼車載テレビのワイドショーがマスゾエ氏を吊し上げている。毎週末公用車で湯河原に通ってるだの、海外出張はファーストクラスに高級ホテルのスイートだの、正月の家族旅行を会議と記載しただの、家族の食事も領収書で落としてるだの責めたてる。「マスコミも徹底的にやるなあ」と同僚。僕も同感。マスゾエもマスゾエだが、マスコミに批判する資格はないと思う。なぜなら彼らも同じことをやっているはずだからだ。
▼局への行き帰りにタクシー券を使い、打合せと称して飲食を経費で落とし、休暇でワイハに行くような連中が庶民感覚や国民感情を口にするのは違和感がある。世の中にはファーストどころかビジネスにも乗れない人がほとんどだ。僕もそう。一生に一度か二度、社員旅行のアジア格安ツアーがやっと。それでも海外に行けるだけいい方だ。
▼ファーストクラスや高級ホテルのスイート、あるいは高級割烹でもクラブでもいい。これらはお金持ちというよりは、社用や公用でしか使われない施設だ。タクシーの利用でさえ、普通自腹ではためらわれる。緊急の時、例えば妻が産気づいた時などしか使わない。会合でタクシー券を持っていなければ、普通は最終を気にする。乗り過ごせば歩いて帰るか迷うくらいだ。
▼だが、いざ飲み会に繰り出す時、タクシー券を使って分乗していこうとする仲間に、自分は電車やバスを乗り継いでいくと言ったら変わり者だと思われるだろう。お会計の時に誰かが、ここは領収書をもらっておこうと提案した場合、そういうことはよくないと言って自分だけお金を置いていこうとすれば、煙たがられるかもしれない。
▼問題は世の中が、お金を持っている人ほど自分のお金を使わなくても済むような仕組みになっていることだ。お金を持っている人ほどプライベートの他に二つ目のサイフが用意されている。だから公私混同するかどうかはもっぱら各人のモラル如何なのだが、この世に好き好んで自分のポケットからマネーを出そうとする人はいない。
▼お金は使えるものならいくらでも使いたいものだ。仮にファーストクラスや高級ホテルや高級割烹や高級クラブに何の興味もないマイホームパパがいたとしよう。しかし彼にはマイホームのローンがある。子供の教育にもお金をかけたい。お金はいくらあっても邪魔にならない。可能なものは経費で落としたいと思う。それが人情だ。これら全てのことを諦めて僕は生きている。それは僕が勘所がわからずズレている結果だから仕方がない。
▼ましてマスゾエさんは私人であるより公人である時間の方が圧倒的に長い人だ。公人としては全ての場面で領収書が必要になる人が、ほんのちょっとの私的時間を截然と分けて考えるのは聖人君主でもない限り難しいと思う。また、ひとたびファーストクラスやスイートが当たりまえになれば、プライベートでエコノミーやビジネスホテルを使う気になんか絶対になりっこない。彼も我々と同じ人の子なのだ。

水曜豚肉の塩レモン焼きにかぼちゃグラタンにサラダ。昨日から所属するヨガグループのマスターが年に一度の集金行脚中の妻は日曜までヨガ合宿。おかげで我ら三バカも、ようやく合宿生活から解放されたと思ったら再び合宿生活に逆戻りだ。