第6次合宿生活

梅雨の晴れ間である。天気はいいが、驚くほど涼しい。ソファに寝転んでいるといい風が入ってくる。まるで初夏に逆戻りしたかのようだ。夏を通してこんなだったらどんなに楽だろう。
▼妻が帰省して今日からまた合宿生活の始まりだ。夏場は洗濯物が軽くていい。ほとんど下着のようなものだ。明日はお義父さんの納骨。この天気がもってくれればいいのだが。スタートが土曜ということもあって、昨夜は子供たちは二人とも帰ってこなかった。男親に求心力はない。EUといっしょだ。
▼英国民の意見が二分したのは、イギリスに国民が二種類いたってことだ。どの国でもそうだが、若くて教育があり、グローバルに活躍するエリートばかりではない。まあ実際そんなのは一握りだが、そうなることを夢見て都市部に暮らす人も含めると半分近くになるんだろう。あとの半分は夢も理想もない人たち。すなわち教育もなく一生生まれた土地から離れず老いていく人。
▼彼らが自分たちの生活を第一に考えるのは仕方がないことだ。だって生活しかないんだから。彼らに必要なものはなんだろう。しがない自分の存在をありのままに肯定してくれる母親の愛情しかないんじゃないか。日本の農村部における小沢一郎は、イギリスの漁師町の聖母マリアみたいなもんかもしんない。でも男じゃしょうがねえな。
▼というわけで昨日は子供たちに邪魔されず一人ゆっくり缶酎ハイ片手にラグビー観戦。僕は案外幸せな方かもしれない。結果は先週とほぼ同じ。前半押し気味だったのはスコットランドの中心選手リードローが出ていなかったから。ホーム、相手の不慣れな高音多湿、日本ラグビー史上初の天覧試合…たぶん勝つためにこれ以上の条件はないと思う。見かけの接戦以上に力量差を感じた。
▼日本に足りないものはなんだろう。それは勝ち方の法則、パターン、型のようなものだ。スクラム、ラック、モール、タックル全てが底上げされているが、試合を通していかにリードしてノーサイドを迎えるかのプランを誰も描けていない。ただ80分全力でやってるだけ。それじゃあ善戦どまりだ。後半リードローが出てきて戦術が一変したスコットランドは、日本のミス(反則)から得たPGで得点を重ねた。これが勝ち方。
ラグビー先進国はみなそうだが、トライはもうけもんて感じ。トライが奪えれば点差は開く。でも勝敗には関係ない。攻撃の基本はあくまで相手陣内で得た反則は全てPGをねらう。すなわちディフェンスの基本は自陣で反則しないこと。ゴローのキックがもてはやされるが、ラグビー強国でPGは100パー決まって当たり前。そうでないと計算がたたない。成功率が高いと騒ぐ時点で負けだ。
ラグビーは旧大英帝国の国技のようなものだ。これらラグビーの格付でティア1に属する国と日本のようなティア2の国との間には歴然とした差が存在する。それは昨日今日のゴローフィーバーと違って、EU離脱に票を投じる頑迷な片田舎の住人全ての視線を背負っているということだ(スコットランドは残留派の方が多いが)。
▼その差は拙稿で指摘したハンドリングのようなスキルを担保する競技人口の裾野や環境というより、サッカー同様文化と言った方がいいかもしれない。日本のラグビーは、つい先年エディが劇的に変えるまで、テレビでよくある外国のとんでもない日本料理を見て我々が「あんなの寿司じゃねえ」と思うような代物だった可能性がある。あるいは贔屓目に見てベースボールに対する野球のような。なんにしろラグビーはまだ日本の文化とは言えない。
▼今日は仕事を半日で切り上げ映画鑑賞。僕は結構幸せな方かも。映画は「さざなみ」

結婚45周年を祝うパーティを週末に控えたある日、夫のもとに一通の封書が届く。若い頃いっしょに登山中遭難した恋人の遺体が見つかったという知らせだ。氷河に瞬間的に凍結された遺体は当時のままだという。
▼そこから夫婦の心は千々に乱れる。夫は現実生活に身が入らず追憶に耽る時間が増える。図書館で地球環境や氷河について調べ、夜中に屋根裏部屋に隠してあった当時の写真を見たり、ひとりで町の旅行社を訪ねスイス行きを検討したり。ただ実際には高齢で身体が弱り、隣村まで歩くこともできない。心ここにあらずの夫の様子を見るうち、理性的な妻も次第に夫の過去が気になり始める。ついに夫の不在中屋根裏部屋に上がり恋人の写真を盗み見た彼女は…
▼重いテーマの映画を想像していたがそうでもなかった。虚心に観ればこの夫は、出来過ぎた妻を持った単なるバカでセンチな男にすぎない。初めのうち妻に気を使って彼女についていちいち「(結婚するときに)話したと思うんだが」という枕をつけていたと思ったら、そのうち大胆になって寝物語に滔々と昔の彼女の想い出を語り出す。妻が気にし始めると今度は「彼女のことは君には関係ない」と言い放つ始末。旦那の気まぐれに振り回される奥さんが気の毒だ。
▼僕もこのアホな亭主みたいに当ブログで気持ちよく若かりし頃の想い出を綴っているが、妻が頓着ない女で助かった。ホントにうちのはヨガとネイルとH&Mにしか興味ないもんな。それもどうかと思うけど、とりあえず僕は幸せなのか?